脅されて、廃城へ 1

 その日の午後遅く。ルージャとライラは副都の大通りに買い物に出された。


「人混みに慣れることも必要だろう」


 レイの、そのある意味傲慢な言葉と共に。


 ライラと一緒に行動できるのは、嬉しい。だが、レイの言葉は、どこか引っかかる。ルージャは子供ではないのだ。人里離れた場所で暮らしていたとしても、人混みくらい何ともない。だからルージャは、ライラと一緒に、多少の強がりを持ちつつも嬉々として買い物をこなした。


 だが。大通りから一歩離れた、割と人通りが少ない場所で、突然、五人の大男に囲まれる。青と白の、新しき国の騎士団の制服を着ているが、白いチュニックの丈が、副都の騎士団よりかなり短い。おそらく第三王子が率いる騎士団所属の者だろう。ルージャはそう、推測した。しかしそいつらが、ルージャ達に何の用だろうか?


「お前達、レイの騎士団の見習いだな」


 ルージャの疑問に答えるように、真ん中の、マントに金の縁取りが付いている男が声を出す。


「廃城を、案内しろ」


 男に言われた言葉に、ルージャは驚きで口が利けなくなった。そんなことを、何故、自分達に頼む?


「お前達が、前に肝試しにあの城へ入ったと聞いた」


 廃城に入り、しかも何かを持って出て来ることができる見習い騎士は、実はあまり多くないらしい。ルージャとライラで半分にして首から提げているラウドの金貨のように、宝物として高く売れそうなものを持って帰ることができた者はかなり少ないと、ユーインから聞いていた。だから、他の騎士に虐められそうになったら、その金貨を見せて罵れと。その手段を、ルージャは用いたことは無かったが、それでも噂は伝播が早い。まだ小さく弱そうに見えるルージャとライラにちょっかいを掛けてくる騎士達は、今までのところ誰も居ない。だが、……その噂が、仇になるとは。とにかく、ライラは巻き込みたくない。


「良いよ」


 真ん中の、この騎士隊の隊長らしき男に向かって、ルージャは頷いた。


「でも、ライラは要らないだろ。ライラを詰所に帰してから……」


「それは、ダメだ。……レイって奴に知られたら、ただじゃ済まない」


 だが、ルージャの言葉は、強い言葉に打ち消された。


「その女も一緒に来てもらう」


 逆らうと、何をされるか分からない。その状態に、俯いて唇を噛む。


「私は、平気」


 後ろから囁かれるライラの言葉と、ルージャの背に触れるライラの柔らかさが、ルージャを惨めな思いにさせた。


「さあ、どうする」


 それでも。騎士隊長の威圧的な言葉に、決断する。とにかく、ライラを守る。それしか無い。


「分かった」


 ルージャはきっと顔を上げると、目の前の男達を睨みつけた。

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