副都と廃城 3

 副都の端にある戦乙女騎士団の詰所に一度戻り、ルージャ達が門限を破って外にいることを悟られないように工作するアルバを残し、青いマントを羽織って外に出る。昼夜通り抜けることができる小さな出入り口から、ルージャ達は副都の城壁の外に出た。そしてそのまま、何も無い夜道を、詰所から持ち出したカンテラ一つだけで進む。副都の裏手に広がる、峻険な山々に囲まれて周りより更に薄暗く思える、疎らに生えた草だけが戦ぐ丘は、不気味というより淋しいという感覚をルージャに与えた。


「ここには昔、古き国の都があったって話だ」


 ルージャ達の前を、カンテラを持って歩くユーインの声が、闇を縫うように響く。


「今じゃ、兵共が夢の後、って感じだがな」


 古き国を創始した初代の女王が、荒涼とした土地に都を建てたのが、そもそもの始まり。女王自身の魔法の力で、何も無い土地を峻険な山々でぐるりと囲み、その中に、女王自身が住まう城と、騎士達が暮らす街を作った。だが、古き国を侵略した新しき国の王、『統一の獅子王』レーヴェは、城を残して全てを破壊するよう命じた。それ故に、今のこの場所は、何も無い平原のまま。


「戦いで殺された古き国の騎士達を、ここにあった都の堀を埋める為に使ったって話もある」


 ユーインの言葉に、背中が震える。ルージャは思わず、繋いでいたライラの手を強く握った。ライラも、ルージャの手を強く握り返してくる。怖いのは、自分だけではない。ルージャはすっと、怖さが無くなるのを感じた。今は、とにかく、何が起こってもライラだけは、守らなければ。


「まあ、葬られただけマシ、なんだろうな。骨になるまで晒されて捨て置かれた騎士団長も居たって話だし」


 背筋が凍るようなユーインの言葉を聞きながらしばらく歩くと、副都の城壁に似た石造りの壁が見えてきた。かつては古き国の王城を守っていたであろう、城壁だ。だが、昔は綺麗に磨かれていたのであろう城壁は既に苔生し、所々に枯れた蔓草が絡まっていた。


「そこが正門」


 ユーインが揺らすカンテラの明かりが、大小の石が無造作に積まれた城壁の一部を照らす。


「封鎖されてるけどな」


 そう言いながら、ユーインは石が積まれた場所よりも五歩ほど横に行った場所を指し示した。


「肝試しをする奴らは、ここから入っている」


 カンテラの明かりで見ると、元は通用門として機能していたのであろう、小さな隙間が、光を暗く反射していた。


「気をつけろよ。入ってすぐのところに落とし穴があるからな」


 ユーインの言う通り、隙間の一歩先に、ぽっかりと開いた穴が見える。ルージャは火を入れたばかりのカンテラをユーインから受け取ると、ライラの手を引いて落とし穴の脇を慎重に進み、廃城の中へと足を踏み入れた。


「真っ直ぐ行けば、城の正門がある」


 大声でアドバイスするユーインに頷き返し、ライラの手を引いて城庭を歩く。かつては庭であった場所は、丈高く枯れかけた草に覆われていた。ルージャ達が地面を踏む度に、その草がカサカサと不気味な音を立てる。そして時折、何の予告も無く、何か小さな影がルージャの横を素早く通り過ぎ、その度にルージャは肝を冷やした。


「だ、大丈夫?」


 ルージャの後ろを歩くライラの声も、震えている。


「あ、ああ」


 ルージャ自身、すぐに踵を返したいくらい、怖い。だが、ライラの前で弱音は吐けない。だからルージャは、虚勢を張って返事をした。


 おっかなびっくり歩いているうちに、多分玄関だろうと思われる石組みを見つける。ユーインが言っていたように、石組みの間に隙間があり、暗い空間が見えた。どうやらここが、城の中へ入る入り口になっているようだ。

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