第5話

「大丈夫ですか!?」


近くにいた人が私が落としたものを拾ってくれた。

「ありがとうございます」と言って何とか受け取り、会計を済ませてコンビニを出る。


ふらふらと歩きながら、私はユキ君との日々を思い出す。初めてユキ君を見た時のこと、初めて実際に会った時のこと、私のSNSのアカウントを伝えた時のこと。


そして、ユキ君を応援していくうちに、いつしか私はユキ君との恋愛の妄想に囚われていったことを。


テレビで見せるウインクを、自分に向けてのものだと思い込むことで、ライブをデートだと思い込むことで、フォロワー数0のアカウントでの呟きをユキ君だけが見てくれていると思い込むことで、そしてファンの子が書き込むユキ君への賞賛や思いを嘲笑することで私はユキ君の彼女であるという都合の良い夢を見続けていた。

だけど今日、私は夢から覚めてしまった。


さっきまで私とユキ君の秘密の恋愛は確かにここにあったはずなのに。


「私から奪わないでよ!」



悔しさと惨めさを噛み締めながら、私はまた原田綾のインスタを開いていた。最終投稿は5分前。


『今日はお友達のライブ見てきます!特別にチケットもらいました〜』


ドアップで写る原田綾の顔は笑顔で、そしてその後ろの鞄からははみ出ているのは間違いなく、今私が持っているものと同じうちわ、ペンライト、タオルだった。


「どうしてなのユキ君。どうしてこんな匂わせするような子がいいの?」


ポロポロと涙が溢れてくる。

私だったら絶対に匂わせなんてしない。仮に結婚できた後でだって結婚したことすら隠し通す自信があるのに。


泣きながらも原田綾の写真をスワイプし、投稿を読んでいき、私の指は途中で止まった。そして画面に釘付けになる。


『ライブといえば!今度私たちもライブします!そしてそこで新メンバー追加オーディションを開催します!女の子は是非是非受けてね!』


ああ、なんだ簡単なことだったんだ。

私も、アイドルになればいいんだ。


そしたら次こそユキ君と本当に秘密の恋愛ができる。



待っててね、ユキ君。

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私の恋人はーー 紅葉 @uzukisphinx1205

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