第4話

気づけば原田綾のインスタを開いて匂わせ投稿がされないかをチェックしながら迎えた土曜日。


「早く来すぎちゃったかな」


ユキ君は相変わらず私に合図を送ってくれていたけれど、やっぱり不安で胸がいっぱいになっていた。なかなか眠れなくて、早く会いたくて約束の時間よりかなり早く待ち合わせ場所に着いてしまった。

コンパクトミラーを開いてメイクと髪型をチェックする。ユキ君はいつでも「とっておきのおしゃれしてきてね」と言ってくれるから、私も気を抜かない。


ミラーをしまい、次はスマホを取り出す。SNSで自分のアカウントを開いて、投稿する。


『やっと会えるね』


私のアカウントを知っている人は、私以外にはユキ君しか知らない。ユキ君にしか教えていない、二人だけの秘密。私はそこにユキ君への私信を投稿していた。もちろん「ユキ君へ」とは書いてないから、他の人が見ても何のことかわからないと思う。

だけど、原田綾のインスタを見てから追加したことがある。語尾に雪の結晶の絵文字を添えるようにしてる。これは、私ができる精一杯の匂わせだった。かつての匂わせ女と同じ土俵には立ちたくないけど、それでもどうしても我慢できなかった。偽物の彼女の方が噂になってるのを、黙って見てなんていられない。


「ユキ君、怒るかな」


今日会ったらきっと怒るだろうなぁなんて考えつつ、でも優しいから怒った後優しくフォローしてくれるはずだよね。


あまりにも早く着きすぎて喉が乾いてきたので、近くのコンビニに入る。

ユキ君が好きな紅茶を手に取り、レジに並んでいた時その悲痛な叫びは聞こえてきた。


「ぎゃー!まじでユキ君と原田綾撮られてるじゃん!」

「交際3ヶ月!?原田綾の匂わせは本物だったってこと?」

「えー!!今日ライブなのに!?どんな顔して参戦すればいいの!?」


撮られてる?匂わせは本当だった?


私の手から紅茶が、肩から鞄が落ちていく。

カバンの中身が床に散らばった。


ユキ君のうちわ、ユキ君のタオル、ユキ君の色のペンライト、そしてーー今日のライブのチケット。

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