第3話

検索結果で出てきたのは、白いキラキラの衣装に身を包んだ女の子だった。黒髪ストレート、庇護欲を掻き立てるような大きくて潤んだ瞳、今にも折れそうな真っ白くて細い手足。

まさに女の子の理想を詰め込んだようなタイプ。誰がどう見たって可愛いと認めざるを得ないような女の子。それが原田綾だった。


「匂わせねぇ……」


近年、匂わせ女というのは度々炎上してる。中にはこじつけだよね?と思うものも多数存在するけれど。有名人と付き合ってる人なら匂わせる行為は一番のタブーであることも確か。

私はユキ君と付き合ってることを知られないように徹底している。もし下手に匂わせるようなことをSNSに投稿したり、それこそ学校で口走ってバレてしまったら、ユキ君との関係は間違いなく終わってしまうから。

だから匂わせ女が炎上するたび、彼女たちを見て内心軽蔑していた。好きな人に迷惑をかけてでも自分が彼女ですってアピールしたいなんて愚かすぎる。そんなの本当の好きじゃない。有名人と付き合っている自分に酔いしれてるだけでしょ?自慢したいだけでしょ?そんな自己顕示欲が、相手を思う気持ちに勝るなんておかしすぎる。


私はその日は帰った後、原田綾のインスタを眺めてメモをとる。もちろん、匂わせだと思われる写真について。それが思ったよりもたくさんありすぎて、私はため息をついた。


例えば四月四日の投稿。

『今日はレコーディングでした!今から大好きなシチューをいただきます』


美味しそうなシチューを目の前にして、いただきますのポーズをしている彼女が写っている。一見何の変哲もない写真だけど、私の目は誤魔化されない。

いただきますをしている彼女の爪。綺麗にネイルが施されており、それをよく見ると雪の結晶のような飾りがついている。ユキ君にちなんで雪の結晶の飾りを選んだんだろう。


次に五月三日の投稿。

『ライブに足を運んで下さり、ありがとうございました!本当に楽しかったです。楽しすぎて元気が有り余っていたので、帰りにショッピングモールでマネージャーさんとお買い物してました』


ライブでの写真と、ライブ終わりに行ったと思われるショッピングモールでの写真があがっている。

これも一見何の変哲もないけど、ショッピングモールの写真の右側に少し映っているお店は、ユキ君が前に雑誌で話していた好きなブランドのお店だった。



そして五月二十九日の投稿。ちょうど昨日の歌番組の日。


『久々の生放送だぁ〜緊張するぅ〜。あ、こないだライブの時にファンの方に頂いたお花を少し載せますね。ありがとうございます!これ、ブルーローズって言うんだって!!』


楽屋前で撮ってる写真が投稿されている。この写真は特に何もないが、横にスワイプして出てきた花が問題だった。綺麗な青い薔薇の花。ユキ君のメンバーカラーである青。そしてユキ君が好きな花も薔薇。


もう確信犯だとしか思えなかった。

原田綾はユキ君を狙っているしなんならユキ君と付き合ってるように思わせるような投稿を繰り返してる。スマホを持つ手が震えていた。


こんな匂わせ投稿を繰り返すような女に、ユキ君は渡さない。現に世間ではこの二人が付き合ってるなんていう噂まで広まってしまっている。本当の彼女は私なのに。


「どうすればユキ君をこの女から守れるだろう」


スマホの中で微笑む原田綾を睨みつける。

私だって本当はユキ君の彼女だって堂々とみんなに言ってしまいたい。でもユキ君が好きだから、迷惑かけたくないから我慢してる。

なのに原田綾は本当の彼女でもないくせに彼女ヅラしてこんな能天気なことをしてる。

ユキ君だってこの噂のこと知ってるはずだよね。でも優しいからきっと注意できないんだ。

だったら私が何とかしなきゃ。

決意を固めたところでふと思い出す。


「そうだ、今度の土曜日デートだった」



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