第2話

私があの女ーー原田綾がユキ君に近づこうとしているのを知ったのは、同じクラスの友達の話からだった。


「昨日の音楽番組見た!?ユキ君めっちゃカッコよかったねー!!」

「え?何?ユキ?」

「もーユキ君だよ!こないだも教えたじゃーん」

「ごめん、あんまり興味湧かなくてさ」

「うそあのイケメン見て興味湧かないってどういうこと!?」

「ははは・・・・・・」


知らないフリをしているのはもちろん演技だ。

私はクラスでは「アイドルに興味がない女子生徒」として通ってる。そうでもしないときっとユキ君とのこと、隠せないと思っているから。

友達を騙していることに罪悪感がないわけじゃない。それでもやっぱり私はユキ君のことを一番考えないといけないと思ってる。

アイドルに彼女がいるなんて知られたら大炎上してしまうことは目に見えてる。

そんなリスクを冒してでも、ユキ君は私と付き合ってくれているんだから、私だってそんなユキ君の気持ちに全力で応えたい。


「そういやまたあいつユキ君のほう見てたでしょ?」

「え、またぁ!?こないだもなーんか妙な写真、インスタにあげてたよね?」

「もうあいつマジで何なの。ユキ君に近づこうとしてんの?」

「もう付き合ってたりしてんのかな」

「やだやめてよ!絶対ない!ないから!」



ユキ君、今頃何してるのかなーなんてぼんやりしていたら、聞き捨てならない会話が聞こえてきてしまった。


「ね、あいつって誰?」

「あいつだよあいつ!まーアンタはユキ君にも興味ないくらいだから、女アイドルなんてもっと知らないか」

「えー教えてよー」

「昨日の音楽番組に一緒に出てた女アイドルの」


ーー原田綾って子だよ。前からユキ君のこと狙ってるとか、なんならもう彼女だって噂があるんだよね。



この話を聞いても、動揺を見せずに「そうなんだー」と返せた私は、今からでも女優を目指せるんじゃないかと思った。


チャイムが鳴ってみんなが座席に戻っていく。

私も戻る。


「みなさん、おはようございます」

「おはようございまーす」


先生に挨拶を返しながら、私はこっそりスマホで「原田綾」を検索した。

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