私の恋人はーー

紅葉

第1話

私には、誰にも言えない恋人がいる。


『ユキ君、お顔が天才』

『これで性格もいいとか神。推せる』

『今ウインクやばい!ねぇ!かっこよすぎて無理』


目の前のテレビとスマホを交互に見ながら、私は忙しく親指を動かす。顔が天才なのは当たり前だし、性格いいのも当たり前。かっこよすぎるのも当たり前。そんな当たり前のことを呟いて、みんな何が楽しいんだろう。


あ、ちなみにウインクは私に向けてだからね。

ちらほらと「私にしてくれたー」みたいに書いてるやついるけど、ほんと、勘違いしないでほしい。


「ありがとうございましたー!」


元気いっぱいの声がテレビから聞こえてくる。

お辞儀をする彼にそっと、私は「お疲れ様」と呟く。


私の彼ーー白井由紀人、通称ユキ君は今をときめくアイドルだ。

だから、誰にも私が彼女だなんて言えない。

忙しい彼だから会えるのも年に何回かだけだし、外で会うなんてもちろんできない。寂しくないと言えば嘘になるけど、私はユキ君の負担にはなりたくない。良い彼女でいたいから、今はグッと我慢する。だってそのかわり、今日みたいに彼はテレビ越しに私にいつもウインクしたり、手を振ったりで合図を送ってくれるから。

合図を見つけるたび、私は胸がドキドキする。

離れていても、会えなくてもユキ君は私のことを思ってくれているんだって実感できる。


それだけで、十分だって今は思ってる。

なのに、あの女のせいで最近は心が穏やかじゃない。


だからユキ君、もっと私を安心させてよ……。

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