第33話 理知と鮮やかさを結い加える
探波第三高校の入学式のあと、クラスで行われた自己紹介時間から、閑谷 鮮加を意識していたんだと今にしてみれば思う。密かに可愛い一年生がいると噂になっていたし、のちに芸能界にスカウトされる片鱗は前々からあるし、野次馬的思考で当然と言えばそうなのかもしれない。
天性とも呼べる愛想の良さは、感覚的に他者にも伝達してしまうものらしい。ただオレが閑谷のことを気にしたのは、もちろん端正な容姿や体格も少なからずあると思うけど、一番は着席から起立するまでのなだらか所作が、同級生とは思えないくらい華麗だったこと。あと余談だけど、それに反してじたばたと揺れる横髪の編み込みとのアンバランスがちょっと可笑しかったことだ。
教室内の窓側後方席だから、ほとんど閑谷の背格好しか見えなかった。程良く緊張が混ざっているのにも関わらず、透き通った声色で出席番号と名前を告げ、よろしくお願いしますと会釈した彼女。再度着席する姿も相変わらずだったと記憶している。
でもこのときにオレが所感したのは、クラスメートだけど、あんまり関わり合いにはならないタイプだろうなと勝手に決め付けた。そもそもが異性だし、根暗を自負する輩の相手なんてする暇もないくらい高校生活を自由に謳歌しそうだとぼんやりと眺める。
まあ……初対面でろくに喋ったこともない閑谷にここまでの感想を抱いている時点で、相当惹かれていたのは否定出来ない。
これを面食いと揶揄されても仕方がない。だがオレの持論として、こうした何気ない振る舞いにこそ性格の一端が顕著になる。美意識とは、体裁に自然と現れる。
結局は他者の内面なんて覗くことは叶わないし、そんなのが解れば心理士や精神鑑定も用済み。もしかしたら占星師や探偵も要らないかもしれない。
帰結として第一印象こそがあなたはこういう性格ですよというレッテルを身勝手に貼り付ける。それは皮肉やら僻みかもしれないが、実態はそんなものだろう。だってオレが仮に、自分は心優しい内面をしているんだ、なんて喧伝したところで素直に信じる他人はほとんどいない、逆に疑心暗鬼になる。
まあ何はともあれ、閑谷に対するそれが人間としてか異性としてか、はたまた別の何かなんて誰も興味ないし不毛でしかないけど、とかくにオレなんて人種は、彼女の人生をたまに一瞥するくらいがちょうどいい。
さすれば他人が傷つかない。
美麗な閑谷がオレに傷付けられない。
閑かに幸せを祈るだけでいい。
オレの人生なんて、ひたすら日々を指折るくらいで事足りる。
周囲に鮮烈を加える彼女の傍観者席。
縁が結ばれる道理も更々無いだろう。
ならば置かれた場所でみっともなく呼吸をするだけだ。
そんな風に自己完結して、オレは窓外に視界を移す。
すぐに退屈な無愛想が反射する。
くだらない苦笑いをする気力も無くなる。
当時はまさか、約半月後に閑谷と普通に連絡を取り合ったり、会話をしたり、ましてや閑谷がヨーロッパの探偵風のトレンチコートとハンチング帽を纏っているなんて予想だにもせずに。
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