第7話
ピー。
僕の口笛が、辺りに響く。
しばらくすると、蹄の音が聞こえてきた。
「レン!」
茶色の見た目普通の馬。でもちゃんと訓練を受けた僕用の馬なんだ。口笛一つで僕の元へ駆けつける。貴族を舐めるなよ。
「レン、重いけど……これ、よろしく」
もう少し、腕力つけないとダメかも。
レンの上に乗り冒険者ギルドへと向け走った。きっと彼はまだ冒険者ギルドへは戻ってないだろう。戻れば、僕を探しに行かなくてはいけない。彼が行かなくても、他の者を探しに行かせるだろう。
フリードの目的は、僕の足止めだ。きっと明日には色々と片付く計算だと思う。急がないと!
「すみません!」
「え? クレットさん?」
受付嬢が驚いている。そして、奥へ行った。すぐにシーダーさんが出てきた。
「これ、持ってきました」
「……。それはご苦労。で、フリードは?」
ちょっと怖い目つきで僕を見た。フリードをまいて、密かに買いに行ったのかとか思っている?
「僕の事を疑っています? これは、ちゃんと……いえ、鉱山で採取した魔石です」
ちゃんとではないかもしれない。爆破してくれたおかげで、採取する手間は省けたから。
「それで? フリードは?」
「さあ? 彼がどこへ行ったかはわかりません。何せ僕は、閉じ込められましたから」
「閉じ込められた!?」
シーダーさんが、まさかという顔をした。
僕は、時間もないしまずは、何があったか話した。
「おかしいとは思ったけど」
「おかしいとは?」
シーダーさんがボソッと漏らした言葉を拾って僕は聞く。
「彼は、大の貴族嫌いでね。まさかそこまでするとはね」
「嫌いだから閉じ込めたわけではないと思います。きっとお金で雇われたかと」
「まさか! 貴族から請け負ったとでも?」
「目当ては、お金ではなく僕を貶める事だと思う。貴族を貶められればいいんじゃないかと。彼を知らないから推測ですが」
「まあ確かにね。新人にテストとして行かせるのがあの場所だからね」
やっぱりそういうのは決まっていたんだ。
もし万が一マコトのオーブを貸す事になったとしても、冒険者と全く関係ないものには貸し出せない。だとすれば、冒険者にするしかない。そして、いつも通りテストを行う。
放っておけば、今回、僕は冒険者テストを受けられなかった。それでもいいような気がするが、それで警察に行って、警察の者が乗り込んできても困るそう思ったのかも。
殺すとなると、後々厄介だから閉じ込める事にした。でもなぁ、ここに来るとわかっていたとしてもそこまでするかだ。
もしかしたら僕が警察へ直接行ったかもしれないし。
でも彼が、単独でしたとは考えづらい。なにせ爆弾を用意していたのだから。
「よしわかった。行きましょう」
「え? 僕の話を信じてくれるんですか?」
「鉱山に見に行けば、爆発の跡はあるでしょう? それがあればあなたの言っている事は正しい事になるわ。それにまかれたとしてフリードが戻ってこないのがおかしいでしょう。あなたは戻って来たのだから」
そうか。フリードがいない事が僕の言葉の信憑性を高めてくれたのか。
「でも今から見に行くんですよね?」
「えぇ、行かせるわ。でも私はあなたを信じる。だからこのまま行きましょう」
「僕は、嬉しいですけど、いいんですか、断りもなく……」
「あぁ、マスターにって事? 今日はいないけど明日には帰って来るから問題ないわ。私はサブマスターなの。マスターが居ない時は、私の判断でOKだから心配しないで」
「えぇ! サブマスターってマスターの次に偉い人ですよね?」
「そうね。今回の判断は私の責任って事になるわ。あなたも覚悟してよ」
「ありがとうございます」
僕は、シーダーさんに、深々と頭を下げた。まさか女性がサブマスターだったなんて。
でも彼女の話で納得いったかも。なぜ今日の日が選ばれたのか。
今日は、僕の卒業式だった。僕らは喜びの中にいた。そこに姉さんの毒殺未遂の話が飛び込んでくれば、天国から地獄だ。しかもサブマスターしかいない冒険者ギルドなら、フリードが失敗したとしても簡単に貸し出したりしないだろうと踏んだ。
きっと明日帰って来るのなら明日まで待つと。
どうやらポールアード伯爵家は、今日中に姉さんと父さんを貶める計画のようだ。
シーダーさんの決断により、僕らはポールアード伯爵家へと向かう事になった。彼女にだけ、経緯を話した。色々とシーダーさんは用意があるようで、一時間後に出発しポールアード伯爵家の前に着いたのはいいけれど。
「さっさと帰ってもらおう!」
門番が、全然取り持ってくれない。僕達が来ても取り次ぐなと言われているのだろう。無理やり入るわけにもいかないし。
「なぜだ? 私は冒険者ギルドの者だ」
シーダーさんは、冒険者カードを見せた。それでも頑として譲らない。困った。
「お前、いやあなたは、訴えられたい?」
「な! 私は、ここの主人に言われて従っている!」
「ほう。では、通さないのは主人の責任という事だな」
「……そ、それは」
「なんだ。責任は自分が取ると言えばいいだろう」
「な、何?」
「命を掛けてここを守っているのだろう?」
「………」
「ちょっと、シーダーさん?」
凄い事を言い出した。脅すにしても遠回しに殺すぞというのはちょっと……。
「なんだ? 入らないと話にならないだろう。私とて暇じゃない。こんなところで時間をつぶしたくない」
「いや、それは僕も一緒ですけど」
「私が言いたいのは、他の者の言葉でそこをどけた場合、辞職しろっと言ったまでだ」
「わぁ……。それってレドソン侯爵家の人とか?」
「侯爵? その者だとここを通すのか?」
「いえ、通しません!」
「では、私達はならどうです?」
「え?」
振り向くと、ビシッとした服装をした男性が三人立っていた。彼らは、もしかして役所の人?
役所のバッチをつけている。どうしてここに……。
「………」
門番が目を丸くしている。
「私が連絡しておいた。マコトのオーブを貸してくれなくても、人なら貸してくれるだろうとな」
なんと、役所にまで手を回してくれていた。
「私は、保安部冒険者室室長、リダル。この者達の立ち合いに来た」
リダルさんは、カードを見せている。それには言った通り、保安部冒険者室室長 アドルフ・リダルと書いてあった。
いかにもお役所の者ですという感じで、黄土色の髪をオールバックし、眼鏡を着用。その眼鏡の奥には、茶色い瞳がギラリと光っている。
「とり次いでもらえるかな? できないのであれば、警察に連絡を入れ毒策未遂の実行犯を捕らえに来る為の手続きをとるが」
「しょ、少々お待ちを」
青ざめた門番は、すぐさま屋敷の中へと向かった。
「本当にむかつくわね。役所の者なら呼びに行くじゃない」
「いや、室長自ら来たら伝えないわけにはいかないのでは?」
僕がボソッと言えば、シーダーさんがニヤリと笑う。
もしかして、名指しして呼んだとか? この人、何者?
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