第8話

 「あぁ、ご苦労様です。保安部冒険者室とか……。なぜ、そのような部署がここに来たのでしょうか?」


 濃い紫の髪に瞳のポールアード伯爵。髭も蓄え、ちょっと出たおなかも貫禄がある。一番は、じろりと睨む目だろう。


 「彼が言うのには、あなたに唆され、我が冒険者の者が彼を貶めたとか。それを確認しに来ました」

 「そんな戯言を……」

 「ちょっとでいいのです。あなたにお聞きするだけですので。役所の方もおりますので、今、この場で行ってしまいましょう」

 「な、なんだと!」

 「戯言なのでしょう? 申し訳ありませんがご協力お願いします。彼の戯言ならここですぐ捕らえる事ができますので。それとも協力できない事がおありでしょうか? 三分もあれば出来る事です」


 ポールアード伯爵は、目を丸くした後、ぎろりとシーダーさんを睨むもそんな事では彼女は怯まない。


 「彼女の言う通りです。私もここに足を運んだことですし、ご協力をお願いできますね」

 「わかりました。ここではなんなので、中へどうぞ」


 僕達は、門をくぐった。と、そこでシーダーさんが言う。


 「おや、通していただけるのですね。ですが、私どもの件ですのでそこまでしていただかなくて結構です。今ここで、お願いします。協力をして頂けるのですよね?」

 「わかりました」


 ふうっと、あからさまにため息をして見せたポールアード伯爵。もしかして、自信がある?

 あ、そっか。色々手配するにしたって、大まかにしかしていないだろう。フリードの事など知らない。彼の事を聞かれても「知らない」と答えれば嘘にはならない。そういう事か!

 冒険者ギルドの事以外なら拒否できる権利がある。だから毒殺事件の事なら答えなくてもいい。

 どうしよう。でも質問できるのは、シーダーさんだけだ。


 「では、保安部冒険者室リダルが見届け人を引き受けた。シーダー殿、あなたは今回の冒険者ギルドの件についてのみ質問できます。ポールアード伯爵殿、その件については必ず答える様に、両者よろしいですね」

 「はい」

 「わかりました」


 二人の承諾のもと、尋問が行われる事となった。

 マコトのオーブにポールアード伯爵は手を乗せた。


 「ではポールアード伯爵様、あなたは今日、冒険者ギルドマスターが不在の事をご存じでしたね?」

 「な……」


 ポールアード伯爵が、驚いた顔つきを見せた。まさかそんな質問をするなんて、僕も驚いたけど、これは知っている様子だな。


 「答えて下さい、伯爵様」


 シーダーさんが促す。


 「あぁ、知っている」


 オーブは、本当だと青く光った。

 だとしたらなんだと、ポールアード伯爵がシーダーさんを睨みつける。

 確かに、偶然聞いたとしてもおかしいとは言えないし、これだけでは僕を貶めた事の証拠にはならない。


 「では、今日を選んだのは、マスターが不在だったからですね」

 「何の事だ!」

 「もちろん、さっき言った件ですよ。さあ答えて下さい」


 まさか、こんな質問の仕方をするなんて。マスターが不在なのを知っているともう確定しているのだから、それで今日を選んでいれば、違うと答えれば嘘だと反応がでるだろう。だけど、ポールアード伯爵の答えは、ノーしかない。そうだと答える事は、貶める企てをした事になる。

 そして、その企てはなんの為なのか……そういう事に至るだろう。

 ありがとう、シーダーさん! 凄すぎるよ!


 「これは、関係ない話だ!」

 「いいえ。ありますよ。なので答えて下さい」

 「そうですね。貶める内容はともかくとして、日時も企てる時の大切な作戦の一つとされます。応えて下さい。ポールアード伯爵様」

 「うぬぬぬ……」


 この様子だと、そういう打ち合わせはしたようだ。


 「ち、違う……」


 オーブは、僕らの期待を裏切らなかった。赤く光った!


 「これは、詳しくお聞きしないといけない結果がでましたね」


 今までニッコリとしていたリダルさんの顔つきが、真顔になりちょっと怖い。


 「うぬぬぬ……」

 「どうせでしたらこのまま、毒殺未遂の件も検証いたしましょう」


 リダルさんの後ろから声が聞こえた。緑の髪を肩で揃えた若い男性だ。彼がカードを見せた。


 「私は、刑事部調査室ジークフリート・アーバンと申します。継続して、毒殺未遂事件の審議を行い、見届け人を致します」


 なんとアーバンさんは、警察だった! リダルさんの一歩後ろに控えていたから部下かと思っていた。よく見れば、警察刑事部のバッチだ。


 「な、何の事だ」

 「こちらに被害届が出されております。リサ・クレットさんが毒殺容疑を掛けられ監禁されていると」


 もう一人の男がそう言った。彼もまた刑事部調査室の者だった。名前は、ストール・スカモンレさん。彼は、赤髪の短髪で歳はリダルさんと同じぐらいに見える。


 「な、誰がそんな事を!」

 「婚約者のカードン・レドソンさんからです。ですので、確かめさせて頂きます」

 「な……!」


 まさか、そういうふうに訴えるとは思わなかった! それは、ポールアード伯爵も同じようで驚いた様子を見せている。


 「関係がないというのなら中を拝見させてください」


 僕らは今、門の中にいる。そう敷地内だ。建物内に入ってはいないが、敷地内にいるのでもうどうしようもないだろう。


 「わかりました」


 諦めたのか前を歩き出すが、その手をアーバンさんが取った。


 「何を!」

 「あなたはすでに容疑者です。規則ですので」


 細いブレスレットの様なモノをポールアード伯爵にはめた。


 「これは、警察署に行くまで外す事はできません。容疑を晴らすなら警察署に行くしかないのです。あなたは、私達の目の前で、マコトのオーブの審議を行いましたからね」


 そうだった。警察が立ち会って行った審議の結果がシロであれば、もう同じ事で審議される事はほぼない。だがクロだった場合は、ちゃんとした調書が取られる。判断を下すのは、裁判だ。だから本来は、警察の立ち会い・・・・は避けたかっただろう。だまし討ちだけどね。

 断りづらい状況にして、断れなくした。ポールアード伯爵も大丈夫だろうという打算もあって、審議を受けてしまったようだ。

 たしかあのブレスレットは、魔法を封じる魔道具で、居場所も把握できる物だったはず。


 最初からこれが狙いだった?

 本当に僕の言葉を信じてくれていたんだ。


 「これからよ。あなたも貶められた被害者だろうけど、フリードは私たちの仲間。冒険者ギルドを悪用した事を後悔させてやるわ」


 嬉しさに振り返れば、不気味な顔つきでシーダーさんが言った。滅茶苦茶怖いんですけど。絶対に敵に回してはいけない人だ! 味方でよかった。

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