第6話

 「聞いたか皆」


 シーダーさんが皆に確認を取っている。


 「あぁ、ひどい話だ」


 聞いたと皆が頷いた。


 「だろう。俺じゃなきゃ、きっとあの場でぶっ飛ばしているかもな」


 フリードが、満足そうにニヤリとしたのが見えた。


 「はぁ……ひどいなぁ。ぶっ飛ばしたいのは僕の方だよ」

 「え?」


 カウンター越しにいる僕を見て、フリードが目を丸くする。


 「ク、クレット……どうしているんだ」


 彼の声は震えていた。信じられないという顔だ。まあそうだろうね。あんな目に遭うなんて思ってなかったからもちろん逃げ出す準備なんてしていない。彼もそう思っていたはず。でも、勝利の女神は僕に微笑んだ。


 「ちょっと長くなるけど、教えてあげる。君が大活躍してくれたからね」


 僕がにっこり微笑めば、フリードは顔を引きつらせた。





 「モンスターが住む様になって、鉱石が採れなくなった代わりに採れるようになった副産物か」


 なんて一人格好つけていたけど、パニックになる寸前だった。これなら警察に行った方がよかったと。

 それでも落ち着いていれたのは、訓練を受けていたからかもしれない。予定通りでない場合は、探しに来てくれる。そう習った。護衛ではないから当てはまらないかもしれないが、ここで採取する権限は今日の夕刻まで。

 それ以上になれば、探しに来るだろう。フリードが助けを呼びに行くわけがないから、もしかしたら明日の朝になるかもしれないけど、ここからは出られる。ならば、今出来る事をしよう。


 僕は、彼が爆弾で破壊してくれた事で掘り出す手間が省けた魔石を拾い集めた。預かった袋は、リュックぐらいの大きさがある。出来るだけ拾って袋に入れた。


 「ちょっとこれ、重いんだけど……」


 さて、出られないかもう一度確認してみよう。


 『ねえ、ルトルゼン。ここから出たいの?』

 「ひぃ。な、何?」


 今、女の子の声が聞こえた? 姉さん? いやもっと若い声。というか、姉さんの声だったらやばいだろう。


 『ここよ』

 「ぎゃー!」


 とつぜん目の前に猫が現れた。


 「………」


 あれ? 小さい。手のひらサイズの羽がある猫……。


 『ねえ、ってば』

 「あぁ、はい。えっと幻?」

 『違うもん。ちゃんとここにいるもん』

 「も、もしかして、精霊とか!?」

 『そうだよ。えへへ。魔力だどって来ちゃった』

 「………」


 たどれるんだ。っていうか、花から生まれた!


 「精霊のゆりかごから生まれたの? いつ!?」

 『さっきだよ。願いを叶える為に生まれたんだよ』

 「願いを叶える……あ、無事に戻れますようにっていうあれ?」

 『そうだよ』

 「や、やったぁ!」


 僕は、ここを走り回りたいほど喜んだ。まさか、願いを叶える為に生まれるとかあるなんて! 言ってみるもんだなぁ。


 「あ、でも、叶えたら消えちゃうとか?」

 『ううん。消えはしないよ。でも契約なしだと一回きりだよ』

 「という事は、契約をすれば何度も聞いてくれるの?」

 『うん。いいよ。その魔力を分けてくれるなら』

 「魔力ならどうぞ!」


 どうせ、使わないし。あ、でもこれからは使うようになるのか。


 『では、名前をください』

 「名前? つければいいって事かな?」

 『うん』


 もうこれは奇跡だよね。


 「安易だけど、ミラクルなんてどう?」

 『ミラクル! うん。ありがとう。ルトルって呼んでいい?』

 「あ、うん」


 さっき、普通にルトルゼンって呼び捨てにしていたのに。


 『ルトルにミラクルを捧げます』

 「え……」


 ドキリとした。ちゅっとほっぺにキスされたからだ。ドキリとするセリフだし。


 『これで、私と契約中は使えるわ』

 「そうなんだ。で、なんていう魔法?」


 わくわくして、僕は聞いた。


 『ミラクルだよ。名前と一緒の魔法なの』

 「………。えっと。それはどんな」


 魔法名からすると凄そうだけど。というか、名前が魔法になるとか聞いてないんだけど。


 『一時的に、奇跡を起こす魔法みたい。今はまだ一分しか使えないけど。あ、一日一回ね』

 「……奇跡だって! って、一回しか使えないの?」


 それまた凄い魔法だ。けど、どう使えばいいかわかりづらいな。一回しか使えないし。効果も一分って……。


 『ダメだった?』

 「ダメじゃないよ! す、凄く助かったよ」


 泣きそうな顔をされて僕は慌ててそう言った。言ったはいいけど、今は試すとかいう状況じゃないからなぁ。確実にここから出る魔法を使わないといけない。

 爆発させるとかできるのかな? でもなぁ、さらに崩れて最悪生き埋めなんて事もありそうで怖い。


 「ねえ、ここから出る為に一番いい魔法ってなんだと思う?」

 『ぎり出来るのは、この崩れた岩の向こう側にワープする事かな』

 「出来るのそんな事?」

 『うん。ただ失敗したら岩に生き埋めになっちゃうけど』

 「……確実な方法でお願いします」


 命がけでっていうのはちょっと……。


 『では、砕くのは?』

 「砕く? 爆発させたら他の場所が崩れる可能性がありそうで怖いんだけど」

 『違うよ。石を砂にする魔法だよ。一分しかできないから大きな穴はあけられないと思うけど』

 「うーん。それが一番なのかな?」


 石を砂にするって凄いな。聞いた事がない。でもまあ、さっきよりは安全そう。


 「それで、どうやって使うの?」

 『ミラクルと三回唱えるの』

 「そうなんだ……」

 『そうすれば、私が魔法を使って実行します!』

 「え!?」


 それは魔法ではないのでは?


 『ダメ?』

 「だ、ダメじゃないです。でもそれって毎回なの?」

 『うん。そうみたい。これは、二人の魔法なの。世界で一つの魔法だよ』

 「な、なるほど」


 僕達だけの魔法か。嬉しいけど、彼女がいないと使えないとは。


 「じゃ、唱えるからよろしくね」

 『うん』

 「ミラクルミラクルミラクル!」


 一応、岩に向かって手を向けていれば、その岩が砂になっていく。そして、一分後。僕が立って通れるほどの隙間が出来た。


 「思ったより大きな隙間が出来てよかった」

 『ルトル、私疲れちゃった。寝ていい?』

 「え? いいけど。ここで寝るの?」

 『うん。ルトルの中で寝る』


 そう言うと、彼女は僕の中にスーッと消えた。


 「へ? な、何? どうなっているの?」


 自分の周りを見るもミラクルはいない。本当に僕の中へと消えたようだ。


 「精霊って寝るんだ」


 なんとかリュックを背負い、砂の上を歩いて隙間からなんとか向こう側へと出る事が出来た。重いリュックがあるから走るのがきつかったけど、外に出ればレンに括り付けられるから。そう思って鉱山の外に出て唖然となった。

 レンがいないのだ。


 「あいつ! レンを放したな!」


 疲れたと僕は、リュックを地面に置いた。

 絶対に許さないからな。

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