第24話 ララとの再会
シャーリー牧場をあとにしたユキト、アリス、ジェイクの三人は、本日の宿を探すため、ノルアーナの街中へと戻ってきていた。
もちろん、あのまま泊めてもらうこともできた。だが、王城の騎士たちが現場検証にくるのだ、彼らの対応に自分たちの宿泊の準備も加えたら、アンナの負担は相当なものになるだろうと思えた。そのため、騎士たちが到着する前に街に戻ったのである。
「それにしても、あのチーズ
ユキトが、先ほどシャーリー牧場で食べたショアラのチーズに思いを馳せながら言った。
「ね! 羊のチーズって初めて食べたけど、気に入っちゃった!」
また食べたいと、隣を歩くアリスが笑みを浮かべる。
「任務終わらせたら、また遊びにいこうじゃないか。その時に、たんまり買い物すればいいさ」
と言うジェイクに、ユキトもアリスも大きくうなずいた。
「そういえば、ここって泊まるとこあるの?」
辺りを見回しながら、ユキトがジェイクにたずねた。
周囲にあるのは、宿泊施設とはほど遠い商店ばかりだ。本当にあるのだろうかと疑問に思ってしまうのも無理はない。
「心配しなさんな。ちゃんとあるさ」
場所は知っているからと、ジェイクが告げる。
その言葉に、ユキトとアリスはホッとした。二人とも、生まれ育ったラクトールの街からでたことがない。ましてや、親の同伴もなく日帰りではない外出は初めてである。不安がつきまとうのはしかたがない。
濃いオレンジ色の日差しが商店街を照らし、家路を急ぐ人々とすれちがう。ここにはまだ、安心できる『日常』があった。この光景を、この穏やかな時間を絶対に守らなければと、ユキトは強く決意する。
(そのためにも、早いとこあいつを見つけださなきゃな)
そんなことを考えていると、
「ユキト、どうかした?」
と、アリスがユキトの顔をのぞき込んだ。
「あ、いや……ここはなんか平和だなって」
「たしかに、魔物の気配もギスギスした雰囲気もないし、平和だよね。でも、いつ治安が悪くなってもおかしくない」
と、周囲に視線を巡らせるアリス。
世界の秩序のバランスが崩れた今、あまり影響がないように見えても、混沌はじわじわと浸食しているだろう。先ほどのシャーリー牧場襲撃事件がいい例である。
「それをどうにかするために、あんたたちが――いや、あたしたちがいるんだろ?」
と、ジェイクは、わざとらしく明るくそう言った。深刻な表情の二人を元気づけるためだ。
「ああ、もちろんだ! 絶対見つけだしてやる!」
「そうだね。痛い目、見てもらわなきゃ!」
先ほどまでのシリアス顔はどこへやら、ユキトとアリスはそう言って、好戦的な笑みを浮かべた。
「じゃあ、早く宿にいって明日に備えようじゃないか」
ジェイクが、そううながした瞬間だった。ユキトが、不意に背後を振り返ったのだ。
「ユキト……?」
彼の行動にアリスが声をかけると、ジェイクも不思議そうにユキトを見る。
「あれ……」
と、ユキトは人混みを指さした。
さし示された先――人波をかき分けるように、見覚えのある山吹色が跳ねている。それは、少しずつこちらに近づいているようだった。
「あれって、ララ……だよね?」
誰にたずねるでもなく、アリスが言葉を紡ぐ。だが、ユキトもジェイクも確信が持てず返事ができなかった。
次第に姿を見せる山吹色は、見覚えのある髪型――かわいらしいツーサイドアップを揺らして駆けてくるララだった。
「やっと……、見つけた!」
ララは三人の前で立ち止まると、息を切らしてそうつぶやいた。
「そんなに急いでどうしたの?」
アリスは、彼女の息が整うのを待ってそうたずねた。
「みなさんが探してる、クーレルの居場所がわかりました」
ララのその言葉に、三人はほとんど同時に驚きの声をあげる。
「え……だって、ララと会ったのって昨日じゃん。昨日の今日でって……うそだろ!?」
信じられないと、ユキトは困惑する。
「言ったじゃないですか。情報収集は、うちの得意分野だって」
と、得意げにララが告げた。
「それにしたって早すぎない? どれだけ
アリスがたずねると、
「それは秘密です」
と、ララはかわいらしい笑顔で言った。
「それはそうと、クーレルはどこにいるんだい?」
いち早く平常心を取り戻したジェイクが、本題をたずねる。
そうだったとララは笑顔を消し、
「北の国ユノカーラにいました」
と、端的に答えた。
「ユノカーラのどこに? てか、街は? 魔物とかはいなかったのか?」
ユキトが矢継ぎ早に問う。
そんな彼に落ち着くように言うと、ララはクーレルを都市部で見つけたこと、街の様子は穏やかだったこと、魔物はいなかったことを話した。
「そっか、被害でてなかったのか。よかった」
心底ホッとしたように、ユキトがつぶやいた。
「それが……」
と、ララは言いにくそうに視線を伏せて口ごもる。
三人の不思議そうな視線に耐えられなくなり、ララはおずおずと口を開いた。
「最初は、アモードルースに行ったんです。港町あるし、情報が一番集まるとこだから――」
アモードルースは、ラクトア王国の西に位置する王国である。ララは、独自の情報網を辿ってクーレルの居場所を探していた。とある筋から、アモードルースの首都にそれらしい人物がいるとの情報が舞い込み、すぐにそこへ向かったのだ。
だが、そこにクーレルの姿はなく、かわりに地獄絵図のような惨状が広がっていた。
「あれは、本当に地獄としか思えなかった……。思い出すだけでもゾッとします」
そう言って、ララは自身をかき抱くように腕を回した。その時の光景を思い出したのか、彼女は少し震えている。
「そんなに酷かったの……?」
アリスがおそるおそるたずねると、ララは静かにうなずいた。
アモードルース王国の首都は壊滅状態で、道は血に染まり、多数の亡骸が無造作に打ち捨てられていたと、彼女は虚空を見つめながら告げる。
「許せねえ! その人たちが、クーレルに何したってんだよ!」
ユキトは、そう怒りをあらわにして拳を強く握りしめた。
声にはださなくとも、アリスとジェイクも怒り心頭なのは同じなのだろう、苦々しい表情をしている。
「その中で、生き残った人を見つけたんです。その人にクーレルの居場所を教えてもらったんですけど、どうやら、彼は誰かを探してるみたいなんですよ」
それが誰なのかはわからないけれどと、ララが言った。
「人を探してる、ねえ。とはいえ、そこまでする必要あったのかねえ?」
ジェイクが、もっともな疑問を口にする。
「そんなん、本人から聞きだせばいいだけだ!」
ユキトはそう吐き捨てるように言って、一人歩きだした。
「ユキト! ちょっと待って! どこいく気?」
アリスが引き止めると、
「ユノカーラだよ」
決まっているだろうとばかりに、ユキトが立ち止まって答えた。
「たぶん、今からいっても間に合わないと思う」
「何で!?」
「だって、探してる人がいなかったら、街の人たちを容赦なく殺す奴だよ? ララがあいつを見つけた時は、たまたま運がよかっただけで、もしかしたらもう……」
すでにユノカーラの街は、惨劇の舞台と化しているかもしれないと、アリスが告げる。
それに、クーレルがまだそこにいるとは限らない。おそらく、移動している可能性の方が高いだろう。
「……じゃあ、どうすんだよ?」
ユキトが、怒りを抑えながら低い声でアリスに問う。
「どうするって、予定通りカロアにいくのよ」
と、それ以外にないとばかりにアリスが答えた。
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