狼と獅子、それぞれの回答

 吹き込まれる温かい息に、薄く目を開ける。飛び込んできたレーヴェの顔に、ラウドは思わず重い手足をばたつかせた。


「気が付いたか?」


 微かに困惑が漂う声が、響く。レーヴェの背中には既に靄は無かった。良かった。動かない身体で、ほっと息を吐く。古き国が『滅びた』とされる今、この大陸を治めることができるのはレーヴェしかいない。そのレーヴェが悪しきモノに支配されてしまっては、この大陸はどうなってしまうのだろう。悪い予想が頭をよぎり、ラウドは思わず震えた。しかし、全ては終わったことだ。


 ふと、前にレイが呟いた言葉を思い出す。……そうか、そういうことか。


「俺を殺して、ここに埋めろ」


 傍らに跪くレーヴェに、なるべく素っ気なく言い放つ。


「微力だが、俺の血と力で、この国を守ってやる」


 それが、ラウドの存在意義であり、今ラウドにできる全て。だが。ラウドの言葉に、レーヴェはただ眉間に皺を寄せると、ラウドを抱き上げて自分の馬に乗せた。


 何故、そんな悲しい顔をする? 再び馬上の人となったレーヴェに感じるのは、疑問だけ。ラウドを殺すことなど、レーヴェには簡単なはずなのに。何故、それをしない? そう思いながら、ラウドの意識は再び、闇の中へと落ちていった。

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