言えない台詞

 その日の、夕方。


 春にしては寒過ぎる夕方で、騎士団詰所の暖炉にくっついて震えていたラウドの傍に、突然レーヴェが現れた。


「何の、用ですか?」


 思わず素で尋ねる。まさか、肩の痣を見られてしまったのでは? ラウドの危惧は、しかしすぐに外れた。


「レンを、叱り飛ばしたそうだな」


 暖炉の傍に立ったレーヴェの言葉に、思わずレーヴェを見上げる。何のことだ? しばらく考えてやっと、昼間修練場で生意気な子供をあしらったことを思い出した。


「あれは、私の子だ」


 思わぬ言葉を、レーヴェは口にする。ラウドにもアリアとの間に、まだ生まれてはいないが子供がいる。ラウドより年上のレーヴェに子供がいてもおかしくは無い。しかしレーヴェにはまだ正妻がいなかったはずだ。と、言うことは。レーヴェの唯一の欠点である『好色』の噂を思い出し、ラウドはレーヴェに悟られぬように低く笑った。だが。


「部下を手荒に扱わぬよう、あいつには厳しく言ってやらねばならん」


 不意に変わったレーヴェの口調に、首を傾げる。


「私も昔、修練の最中に年下の子供に大怪我をさせたことがある。いや、その後でその子を見なくなってしまったから、……もしかすると殺してしまったのかもしれない」


 レーヴェの告白に、ラウドは何も言えず、黙って暖炉の火を見詰めた。

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