狼、子供を守る

 目覚めて最初に見えたのは、レーヴェに仕える騎士団長。


「済まんな」


 頭を下げる騎士団長に、ラウドは床に寝転がったまま首を横に振った。王の危機に対処するのが、王に仕える騎士の役目。だから、レーヴェを殺すことができたラウドを殴るのは、当たり前の行為。そっと、周りを見回す。修練場にはラウドと騎士団長の他誰も居なかった。レーヴェはおそらく、自分の仕事に戻ったのだろう。


「今日の任務は免除するそうだ」


 ラウドの様子に安堵したらしく、騎士団長はそれだけ言うと、王宮内にいるという医術の心得の有る者の名と居場所を告げてから修練場を出て行った。


 空虚な空間に一人残されて、ほっと息を吐く。身体の痛みに構わず起き上がり、怪我の具合を探ると、左肩が少しだけ露出しているのに気付いた。おそらくレーヴェの攻撃を躱した時に服が裂けたのであろう。


 苦い感情が、口に広がる。レーヴェは、左肩にある痣を、見ただろうか? 身体に掛けられていた青いマントで左肩を隠しながら、ラウドは自分の迂闊さに舌打ちした。ラウドの左肩にある、獅子の横顔に似た痣は、ラウドが獅子王の血を引く者である、すなわちレーヴェの異母弟であるという証拠。この痣のことをレーヴェが知ったら、レーヴェは自分をどうするだろうか? 悪い予感に囚われ、ラウドは思わず首を横に振った。痣を見られたにせよ、気付かれなかったにせよ、今のところはまだ無事だ。考える余裕はある。


 と。甲高い声に、入り口の方を向く。入ってきたのは、小さな二つの影。二人とも、どうやらまだ子供のようだ。一人はもう一人よりも大柄で、態度も横柄そうに見える。そして何処かレーヴェに似ていた。


 隅のラウドに気付かないまま、子供達は大人のまねごとのように模擬武器を振り回す。しかし大柄な子供の方が武器の習熟度が高いらしい。たちまちにして大柄な子供が小柄な子供の武器を強い力ではたき落とし、泣き出した小柄な子供を更に叩こうと武器を構えるのが、見えた。放っては、おけない。ラウドはすっと立ち上がると一飛びで子供達の間に割って入り、尻餅をついて泣く小柄な子供を抱き上げて腫れている腕に回復の魔法を掛けた。大柄な子供が武器を振り上げたのが、気配で分かる。攻撃してくる子供を腰の捻り一つで避けると、ラウドは無防備になった子供の背中を力加減無しで蹴り上げ、吹っ飛んで気絶した大柄な子供には構わず小柄な子供を医術の心得が有る者の所へ連れて行く為に修練場を離れた。

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