獅子との対峙

 次の日から、ラウドは王宮内にあてがわれた近衛騎士用の部屋で寝起きし、レーヴェの傍らに付いて回った。レーヴェが信任している伯や貴族達に会う時は謁見の間で儀礼用の槍を構え、執務室で大臣達と政について話し合う時は後ろに立ったまま控え、食事の時は給仕をする。新しき国の王宮は中庭を四角く囲む形で建物が建っている『表』と、王が起居する、『表』より土地が一段高い『奥』から成っているのだが、その『表』の四角の四辺をぐるぐる回るだけ。古き国で見習い騎士をしていた時よりは楽だが、退屈だな。それが、ラウドの正直な感想だった。


 その感想が顔に出ていたらしい。


「修練の相手をせよ」


 執務の合間に、レーヴェによって『表』の四角形の頂点の一つにある建物内のがらんとした部屋に連れて行かれる。天井が高く、床が板張りのその部屋には、壁一面に飾られた模擬武器の他には何も無かった。


「好きな武器を使って良いぞ」


 木製の大剣を手にしたレーヴェを見てから、床に投げ出すように置かれていた木剣を手にする。軽い模擬武器はラウドの手には少し頼りなげに感じたが、それでも、ラウドは気を取り直してレーヴェの前に立った。レーヴェとラウドに付いてきた、レーヴェに仕える騎士団長や他の近衛騎士達は、壁の傍に立っている。見られている。そのことも、ラウドには落ち着かなかった。


 古き国の武術訓練は、実践重視。晴れの日も雨の日も外に出て、実際の武器(刃は丸めてあるが)で訓練をする。この場所のように修練用に作られた建物内で、木製の模擬武器を持って戦った記憶は、ラウドには無い。だが、レーヴェと対峙したラウドが感じたのは、既視感としか言いようがない感覚だった。戸惑うラウドは、それでも、容赦なく打ち込んできたレーヴェの速く重厚な攻撃を紙一重で躱した。修練だろうと実践だろうと、やることは同じだ。滑る床に戸惑いを調整しつつ、ラウドはもう一度レーヴェの攻撃をギリギリで躱すと、くるりと身を翻してレーヴェの背後に飛び上がった。


 レーヴェの後頭部が、無防備に映る。ここで武器を振り下ろせば、例え木剣でもレーヴェを殺せる。しかしラウドは、その好機に何故か躊躇した。次の瞬間、後頭部に、痛みが走る。床の冷たさが、ラウドの身体を優しく出迎えた。

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