獅子の命令

「当面、王宮内から出てはならぬ。私の傍に居ろ」


 未来から帰還した後。都の入り口で待っていた騎士団長に連れて行かれた王宮内にある王の執務室で、レーヴェは居丈高にそう、言い放った。


 レーヴェの言葉に、渋々頷く。ラウド自身、勝手に探索に出て行ったことは間違っていたと思っていた。行き先を誰にも告げていないし、帰って来るとも言っていないのだ。「逃げた」と思われても仕方が無いだろう。


 だが。


「私を拘束して、何をさせるつもりですか、陛下?」


 素っ気なく丁寧に、疑問を口にする。新しき国の法律や慣習に詳しくないラウドにできることは、周辺の探索と部下の育成のみ。『探索』は禁止された。戦争時の蟠りが未だに残っている状態では『育成』も無理だ。戦っている時ならともかく、今の新しき国では、ラウドは役に立たない存在だ。何もできない。自分の力不足が、……悔しい。何故レーヴェは、ラウドを欲しているのだろうか? 何度目かの疑問が湧き上がり、ラウドは思わず下を向いた。できると、すれば。


「私にできることは、悪しきモノを封じることだけですよ」


 それだけ、口にする。ラウドの言葉に、レーヴェはラウドを一瞥し、そして横を向いた。


「別に、何もしなくて良い」


 そしてラウドの気持ちを逆撫でする言葉を口にする。


「『悪しきモノ』など、幻想に過ぎぬ」


 それは、違う。叫びそうになるのを、堪える。悪しきモノは現実に、人々の営みを蝕んでいる。それは古き国でも新しき国でも同じことではないのか? ラウドの疑問に、しかしレーヴェは答えず、ラウドに部屋を出ていくよう手振りで示した。

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