第19話 鳥山の過去

テストが返ってくるまで時間がある。

そんな事を考えながら打ち上げ後に帰宅していると。

公園で鳥山を見つけた。

何やってんだアイツは、と思いながら見ると。


鳥山は顎に手を添えて何かを考えていた。

俺はそのまま素通りしても良かったが。

何となく気になったので近付く。


「あら。田中君じゃない」


「.....お前は何をやっているんだ?鳥山」


「.....ああ。私ね。.....別に何もしてないわ。.....まあでも.....貴方を待っていた、とも言えるわね」


「俺を待っていた?どういう事だ」


「.....貴方の過去の話が聞きたくてね」


俺は!と思いながら鳥山を見る。

しかしそう言われて昔ほど.....抵抗感が無かった。

俺はそのままキョロキョロしてからジュースを買う。

それから戻って来た。


「.....これは何かしら?」


「話を聞くんだろ。だったら長話になりそうだからな」


「お金を払う必要は?」


「無い。そもそも俺が付き合わせる訳だしな」


「そう.....」


鳥山は言いながら笑みを少しだけ浮かべた。

それからニコッとする。

その顔を見ながら驚きつつ.....鳥山から目線を外しながら、どうしていきなりそうなったんだ?、と聞くと。


「.....私も同級生だったわ。色々とげいの.....じゃなくて嵐山佳奈さんと一応ね」


「.....そうか。今更だけど驚きはしないけどな。.....同級生は周りに沢山居るみたいだしな」


「鳥居さんもそうだし.....そうね。驚きはしないかもしれないわね」


「.....俺さ。.....佳奈ってきっと夢を叶えてくれてくれているんだって思う」


「それはどういう意味なのかしら」


「俺は人付き合いを良くしたいって夢があった。そんな時に亡くなったんだ。佳奈が。だから.....それからきっと見守ってくれているんだってそう思う」


そうなのね、と鳥山は缶を撫でる。

それから、貴方はもう強くなったわ、と俺を見上げてくる。

私は嵐山さんとはそんなに仲良くなった訳じゃ無い。

だけど恋しているのが貴方って事は知っていたわ、と言ってくる。

それから悲しげな顔をした。


「大変だったわね」


「.....佳奈が中心だった。常に。.....だけど俺の周りにはその中心を埋めてくれる奴らが居た。それだけで十分な感じがしたよ」


「そうね。.....確かにね」


「.....ところで俺、お前の素性を知っているんだが話しても良いか」


「.....どういう素性かしら」


「お前.....元天才子役だろ。橋本アクアって芸名で」


随分と懐かしい話をするわね、と苦笑する鳥山。

何やってんだ?そんな元天才子役が、と俺は聞くと。

私はそんなものどうでも良いって思ってる、と答えた。

今は視聴者じゃ無くて萌ちゃんが大切なのよ、とも。


「.....そうなのか。それで萌を守る為に引退したのか」


「.....それもあるわね。先ず.....私は芸能界なんて下らないって思っていたわ。.....お母さんが勝手にキッズモデルに応募したのがきっかけね」


「だからお前はメガネとかしているんだな。性格もそんな固くなっているんだな?バレない様にする為に」


「そうね。でもクラスメイトは薄々気がついているわ。10年前の話だけど」


「.....そうだろうな。天才かつ美少女だったもんなお前」


まあ私にとっては.....天才も美少女も嫌になったから引退したまでよ、と言う。

それから俺を見上げてくる。

貴方は.....萌ちゃんと付き合わないの、と聞いてきた。

俺は萌とは付き合わない、と答える。


「.....俺の中心にまだ.....未練が残っているからな」


「.....私としては貴方には萌ちゃんと付き合ってほしいわ」


「.....そう思ってくれるだけアイツも幸せだろうな」


だけどこんな俺だ。

まだ優柔不断な面があるからな、と答えながら。

そこら辺は元天才子役なら分かるだろ?

それにお前って恋愛ドラマとかに出ていたしな。

子供の役で.....それもとても演技が上手かったよな、とも言った。


「.....よく調べているわね。貴方。私の活躍期間は3年なんだけど」


「.....そうだな。調べたら出てきたよ。偶然にな」


「そう。.....そうなのね。ネットは怖いわね」


「.....お前は芸能界に戻る気は無いのか」


「.....無いわ。私は.....戻ったとしてももう人気は出ないわよ」


そんな事は無いと思うがな。

クールな美少女だしな、と思いながらも。

声には出さない様にした。

それから.....ジュースを飲みながら鳥山を見る。


「.....俺は佳奈とは幼稚園の徒競争で出会ったんだ。それから色々あってな。それで.....幼馴染になったんだよな。近所の家が近くで」


「.....そうなのね」


「.....ああ。それから佳奈が家で倒れて.....病院付き合いが始まったんだ」


「.....そうなの.....あ。貴方にこんな事を話してもらうのは理由があるわ」


「?.....どういう理由だ?」


貴方の過去をなるだけ埋めたいのよ。

助けてあげたいって事、と言ってくる鳥山。

俺は鳥山らしからぬ言葉に、またそれは萌の為か、と聞く。

すると、あらあら。直ぐバレたわね、と苦笑する。


「私は萌ちゃんに幸せになってほしい。萌ちゃんが私を助けてくれたから」


「.....そうだな」


「.....だから今度は恩返しがしたいの」


「.....そうか」


だから先ずは貴方の過去を知りたかった、と言いながら俺に微笑む鳥山。

俺はその姿に頬を掻いた。

それから缶をゴミ箱に捨てる。

じゃあ.....先ずは少しづつだけど話そうか、とベンチに腰掛けた。


「無理の無い範囲で聞かせて欲しいわ」


「.....だな。分かってる」


それから俺は目を閉じて思い出す。

過去の全てを。

天才故の.....色々を、だ。


それから鳥山を見た。

こうして人に話すのは初めてだな、と思う。

だけど今なら.....佳奈が俺の側で寄り添ってくれるだろう。

だから話せそうだ。

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