第4話 隆の散った初恋
何とか萌と花苗の試験範囲の分の宿題が終わった。
俺は玄関で萌と花苗を見る。
萌と花苗は、じゃあ約束ね。もし赤点回避したら私達とデートしてね、と柔和に言ってくる。
嬉しそうに、だ。
「まだ回避してないけどな。.....先ずはお前らのテスト回避からな」
「うん。でも絶対に前を向けるよ。これだったら」
「だね。萌」
「.....そうか」
俺は苦笑しながら、じゃあね、と言う2人を見送った。
それから苦笑しながら歩いてリビングに戻っていると玄関がまた開く。
ん?萌か花苗が忘れ物か?、と思ったのだが。
帰宅した桃華姉さんだった。
どうやらすれ違った様だな、と思える。
田中桃華(たなかももか)。
29歳で.....歳が離れているが姉さんだ。
頼れる姉である。
まあ時折情けないが。
思いながら姉さんを見る。
姉さんはニコニコしていた。
胸が大きく顔立ちは薄化粧をしているがそれでも俺と違って美人の姉さん。
それから身長もそこそこ。
八頭身とはいかないが美脚でもある。
「今そこで萌ちゃんと花苗ちゃんに会ったゾ?エッチな事でもしていたのかなぁ?」
「何でそんな事になるんだよ.....」
「だってこの家は2人しか居ないじゃない。私とアンタしか」
「確かにな」
言い忘れていたが。
俺と姉さんしか今現在2階建てのこの家に住んでない。
それは何故かといえば簡単である。
両親は共働きでアメリカ。
つまり海外赴任しているのだ。
その為に俺と姉さんしか居ないのである。
なので先程は家事とかしていたのだが。
「何かあったら私に言ってごらんなさい。この近◯相姦マニアに」
「いっぺん死んでくれる?姉ちゃん。そんな言葉聞きたくもないわ!!!!!」
「ぐふふ.....」
「姉ちゃん。風呂入っているから。入って来て。思考が死んでる」
更に言い忘れていたが。
姉さんは、その。
いけない恋のマニアである。
つまり.....そのアニメだが。
言い出し辛いのだが.....言っている通りだ。
「大体マジで何でそんなの好きなの!?頭おかしいだろ!」
「私は頭おかしくないわよ?何時も通りよ?」
「いつか俺を襲うとか言い出しそうで怖いけどな!」
「え?.....ジュルリ」
最低だ.....。
俺は額に手を添えながらそう思いつつ。
盛大に溜息を吐きながら姉ちゃんの背中を押しながら洗面所に連れて行く。
すると姉ちゃんは、私と風呂に入りたいの?、と言ってくる。
目を輝かせながら.....あのね?
「まあゴメンね。冗談よ。.....アンタがそれを嫌がるのは知っているし。こういう親切をしてくる女の子が苦手な事もね」
「.....ならこんなに言うなよ」
「揶揄ってみたくなっただけ」
「最低だな」
俺はツッコミを入れながら。
姉ちゃん用のバスタオルとかを用意しながら。
渡してから手を振ってきてそのままドアが閉まる。
俺は苦笑しながらそれを見送ってから。
表情を無くした。
そうだな。
俺はもう恋は出来ないだろう。
あの様な事があっては、だ。
初恋は.....散ったのだ。
病死で、だ。
『ねえ。たっくん。私ね。死んだら飛行機雲になりたいな』
『は、はぁ?そんなこと言うな!!!!!』
『うん。でもたっくん。たっくんは寂しがり屋だから今から慣らさないと。ね?』
幼稚園時代に6歳で亡くなった姉の様な存在の免疫の弱かった女の子。
名前は.....嵐山佳奈(あらしやまかな)。
死因は当時は知らなかったが。
後から知った。
マイコプラズマ肺炎の重症化して.....だったそうだ。
実の所。
この事実は2人には話してない。
つまり俺しか知らない記憶だ。
姉もこの事は知っている。
だから優しく接してくれる。
だけどそれでも全然癒えてない。
この初恋が死んだ傷は、だ。
もう恋は出来ないだろう、と思えた。
亡くなった顔を、棺桶を見て、だ。
「.....なあ。佳奈。俺は上手くやっているかな」
そんな呟きをしながら。
俺はその場で膝を丸めて腰を丸めた。
それから涙を流す。
とめどなく真珠の様な涙は.....落ちた。
俺は初恋を心の奥に封じた。
最初に天才を褒めてくれた。
優しくしてくれた。
仲良くしてくれた。
気にしないで年長組の一員として俺を受け入れた。
それが初恋の理由。
だから佳奈が好きだった。
なのに神様って奴は容赦無く全てを奪った。
神様が憎い、と今でも思う。
だから俺みたいな天才がウザいのだ。
「.....」
もし.....万に一つの、もしだが。
2人が佳奈と同じ様な目に遭ったら。
今度こそ自殺するだろうな俺、と思える。
そんな考えで.....今を生きているから。
「御免な。情けない俺で」
そんな呟きに誰も返事はしない。
だが.....電気の灯りは俺を照らしてくれた。
鼻歌が聴こえる。
姉さんが居るって事を知らせてくれた。
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