第9話『忌み落とし』
――その翌日。エコとタークは【石の街トレログ】を目指し、【ヒカズラ平原】の周囲を覆う広大な森を横切っていた。
タークは頭を悩ませていた。次の目的地までは歩いて一週間ほどかかる。旅立ちが突然のことだったので何の準備も出来ておらず、行商人に貰ったわずかな物資の他に食べ物のアテはない。
どうにかして、食料と水を確保しなくては……。そう考えていたのだが、すぐにその心配が杞憂だと分かる。
「エコ、これから俺たちは、常にどうやって水を確保するか意識してなくちゃならない。涼しくなってきたとはいえ日中はまだ暑い。呼吸と汗で、どんどん体の水分が失われてしまうんだ。旅で一番怖いのは脱水になることだからな」
「水なら出せるよ」
言うが早いか、エコは手のひらの上に水を出してみせる。
「出せるったって……これ、飲めるのか?」
「う~ん。これをこのまま飲んだことはないけど、畑の水やりに使うぐらいだから飲んでも平気だと思うよ。でも……、一度沸かしてから飲んだ方がいいかもね」
タークが膝を打った。
「いいぞ! 次に食料の問題をどうするかだが……」
「あ、わたしね、さっき食べられる木の実を見つけたよ。ほら」
エコが手のひらに乗せていたのは、ほんの数粒のチグミの実と呼ばれる赤い木の実だった。果肉は生で、種子は炒って食べられる優秀な食べ物だ。しかし大多数の果実がそうであるように、収穫できるのは秋口の一時期に限られる。
「そうだな、道中でこういうものを少しずつ集めながらなんとか食いつなぐしか……」
「えっ、これを増やせばいいじゃない」
エコがすかっと答える。エコが手のひらを裏返すと、足元にチグミの実が落ちた。
「『グロウ』!」
エコが魔法を唱える。すると、とんでもないことが起こった。
地面に落ちたチグミが果肉を破って白い根と茎を伸ばし、小さな
「……!?」
みしみしと全身を震わせながら、チグミは次第に幹を形作り、枝を伸ばし、その先にどんどんと若葉が芽生えていく。そのまま花を咲かせ、実をつけ……。そこで成長が止まった。
つい先ほどまでエコの手のひらの上に乗っていたチグミの実は、ほんの十数秒で若木となって、タークの目の前で新しい実をつけていた。
「これでよしっと」
エコがさっそくチグミの木から赤い実を摘み出す。
(これが魔法か……!!)
タークは驚愕した。
こんなことが世の中に存在するとは、信じられなかった。エコの家では気が付かなかった、魔法の真の威力。人間が生き残るために、魔法という技術がどれだけ重要か……。
タークは今更ながらにそれを実感した。
思い返してみれば、昨夜エコが何処からか持ってきた野草や果物は、この方法を使ってあの場で作っていたのだ。
エコ頼みにはなるが……、ひとまずこの技術があれば食料に困ることはなさそうだ。
永遠の課題かと思われていたタークの悩みが、解決した。
「……う~ん、楽だ」
タークは腕組みをしながら、正直な感想を漏らした。
空気の濃い森林に、よく踏みしめられた道が通っている。行商人に聞いた限りでは、木々を避けるようにして走っているこの道が、街道と街道を繋げる抜け道になっているそうだ。
たしかに方向的には合っているが、タークが行きに通った道とは別のルートなので街道に出るまで安心できない。
「すごいね~、ターク。図鑑でしか見たことない鳥がいっぱいいる」
そんなタークの不安をよそに、エコははじめて見る深い森の光景ひとつひとつに胸躍らせていた。
しんとした森の中で、様々な鳥のさえずりが木と木の間を鳴り渡っていた。森の中をせわしなく飛び回り、小枝や葉をくわえていく。冬を越すための準備を始めているのだろうか。
タークは危険な獣や魔法生物がいないかばかりに気を割いていたが、しばし気持ちを切り替え、鳥のさえずりに耳を澄ませた。
「確かに、いろんな声がするな」
「ターク、あそこに建物があるよ」
「本当か?」
エコの言う方向に目を向けると、一軒の小屋が建っていた。小屋は植物や苔に侵食されて半ば森と一体化しており、壁は崩れて沢山の窓が開いていた。
人の住んでいる気配はないが、屋根の下で夜を越せるかもしれない。二人はその小屋を訪ねてみることにした。
「ごめんくださ~い……?」
エコが声をかけながら、家の中の暗がりを覗いた。
返答はない。内部は不気味に静まり返っている。壁に空いた無数の穴から光の筋から走り、床にぽつぽつと光点を落としていた。
暗がりの中から何者かの息遣いが聞こえてくる。
エコが顔をしかめ、目を凝らした。
「誰か、いるみたい……?」
「なに?」
タークが驚く。警戒を強めた。
「誰かいるの……?」
エコが魔法で火を起こし、部屋の奥を照らした。
「……?」
そこにいたのは、数人の眠っている子どもだった。
ただその外見は、どうみても普通の人間ではない。角の生えた子ども、下半身が鳥のような子ども、大きな耳を持つ子ども……。
「『
その姿を見てタークがつぶやいた。――『人間もどき』は、魔導士に捨てられたヒト型魔法生物の俗称だ。言葉が通じず、しかし人間と同等の知恵を持つ『人間もどき』はしばしば危険視され、駆除の対象になることもある。
「ターク、なんか様子がヘンだよ……」
エコが子どもたちに近づこうとするのを、すばやくタークが静止した。
「エコ、少し離れよう」
「え……でも……」
「行こう」
渋るエコの肩をタークが無理やり抑え、出口に戻るよう促した。エコも仕方なくそれに従う。小屋から少し離れた茂みの影で、エコが立ち止まった。
「ねえ、ターク。あの人たち、どうしたの?」
「……どうしたもんかな」
タークが口ごもると、人の話し声と、足音が聞こえてきた。
小屋の向こう側から歩いてきたのは、杖を持った二人の男だった。
(あれが『ハンター』か)
タークは事情を悟った。――先ほどの子どもたちは、彼らによって周辺から狩り集められたのだろう。『人間もどき』の子どもたちをわざわざ集める理由など、それほど多くはない。おそらく……。
「あ、あの人たち……!」
タークが反応するよりも早く、エコがその場に杖を置き、小走りで男たちに近づいていった。
「えっ……」
タークは驚いた。
警戒心がなさすぎる! 不意に、初めてエコと出会った時のエコの態度が頭をよぎった。
人懐っこい笑顔を浮かべ、怪しい風体のタークを迎えてくれたエコ……。彼女にはまだ、善人と悪人の区別がないのだ。
「こんにちは!」
「……」
「……こんにちは、お嬢ちゃん」
エコが大きな声であいさつをすると、二人の男は警戒心をあからさまにする。
だが近づいてきたのが無力そうな女の子だと分かると、鼻で笑った。
「あなたたちは、この家に住んでいる人?」
「はァ?」
二人のうち小柄で髪の長い男が、不愉快そうな顔になる。
もう一方の帽子をかぶった男が、小柄な男を右腕で静止しエコに笑顔を向けた。
その腕には、何本もの傷跡が模様のように走っていた。それを見て、エコが少し驚く。
「お嬢ちゃん。お嬢ちゃんはどうしてこんなところにいるんだい? 大人は一緒か?」
「わたしはエコ! タークと一緒に旅をしてるの」
エコが笑顔で言う。『一緒に』という言葉に反応して、男の眉間が動く。
「ほう。それは大変だね。……『ターク』というのは、誰かな。おとうさんかな?」
帽子をかぶった男の目に、異様なぎらつきが走った。その背後で、小柄な男がエコを無視して小屋の中に入った。
「ターク……タークはおとうさんじゃないよ。でも大切な人。きっと……そうだね。家族みたいに」
「そうかい。おじさんたちは『フスコプサロの会』の魔導士。お仕事中なんだ。邪魔になるから、お嬢ちゃんはタークのところに帰りなさい」
「仕事って、なに? その小屋の中にいる子たちと関係があるの? 様子がおかしかったけど」
その言葉を聞いた瞬間、男の笑顔の薄い表皮が剥がれた。
「見タノカ……?」
男がぎらりと光る眼で、エコを睨みつける。エコは背筋に冷たい電気が走るのを感じた。
「まったく面倒なことになりやがった……カナリヤの野郎のせいだ」
男がゆっくりと手を上げる。エコは脚がすくんで、動けなくなっていた。
その時、小屋の中から子どもの泣き声が聞こえた。
「うるせえ!」
どすっ、という曇った音。同時に子どもの苦しそうな悲鳴。エコは我に返った。中に入った男が、目覚めた子どもを蹴ったのだ。
エコが一歩下がった。
「中で、何をしてるの……?」
帽子をかぶった男をじっとにらむ。男の顔に薄ら笑いが浮かぶ。
「『人間もどき』のガキを黙らせたんだ。お前も、知ってしまったからには逃がしてやれなくなりそうだ。見たところお前も……『人間もどき』みたいだしなァ」
男が杖を取り出し、構えた。エコの体が熱くなる。
「『ウォーターシュート』ッ!!」
エコの放った水弾が、帽子をかぶった魔導士の男の顔面にすさまじい力で叩きつけられた。全く攻撃を警戒していなかった男は、不意打ちを食らって意識が飛ぶ。
「どうしたッ!?」
小屋の中から、小柄な男が飛び出してきた。すぐに事態を認めると、男は素早く杖を構えた。エコが魔法を唱える。
「『ウォーターシュート』!」
「ぐっ!」
エコの放った水の弾をかろうじて両手で防ぐと、男は口早に詠唱して杖の先に氷つぶてを作り、放った。エコは膝を折ってとっさにそれを避ける。
「こいつ……! チッ!」
男の顔がゆがんだ。形勢を不利と見てとるや、小柄な男は一気に走り出した。
エコに勝てないことを悟り、仲間を置いて逃げ出したのだ。
「『ウォーターシュート』!」
エコが男の背中に向かって容赦なく水弾を放つ。だが水弾は、森の木々に阻まれて男の体に届かなかった。
「そんな単純な魔法、当たるものか!」
逃げる男が勝ち誇ったかのように笑う。その目前に、タークが現れた。
「ふんっ!!」
タークが男を一撃の下に殴り伏せる。
「ぐがっ……」
小柄な男は地面に後頭部を
「ターク……この人たち、なんなの?」
「……世の中、こんなことばかりさ。エコの家は平和だったんだ。この世の楽園みたいにな」
タークが沈んだ顔をする。小屋の中で、翼の生えた女の子が泣きながら眠っていた。なにかの術で眠らされているらしい。
「この子たちはおそらく……あの男たちに狩り集められたんだ。こういう子どもを食料として取引する連中がいるって話を……耳にしたことがある」
「え……? 食べるの?」
エコが耳を疑う。視線を眠っている子どもに向けた。まだ幼い子どもたちの寝顔と『食べる』という単語が、エコの中ではどうしても結びつかなかった。
「魔導士の中には、俺たちの想像を超えた悪趣味な連中がいるんだよ。餓えて食べるんじゃなく、好き好んで食べる連中が」
「そうなの……」
エコが自分の両手を見る。震えが止まらない。――先ほど感じた背筋の冷気。あの感覚を思い出すと、自然と体が震える……。
エコが、小屋の入り口の前に目をやった。
「……あっ、いなくなってる」
「なに!?」
タークが勢いよく振り返った。昏倒して寝ていたはずの魔導士の姿がない。エコの前で人殺しをしたくない思いからとどめを刺さなかった自分のことを一瞬責めたが、もう遅かった。魔導士を逃がしたら、どんな形で報復されるかしれない。
エコがそのまま小屋の外に出た。すると、倒れていたはずの魔導士は少し離れた場所に立っていた。
「ふう、ふう、ふっ。うふっ、うふふふふ」
魔導士は、まっすぐエコの顔を見て、笑っていた。
その手首から流れる鮮やかな赤い血の色が、エコの目に飛び込んでくる。
「これで、お前をたおせる~~。見てろよ~、お前ら二人をひねり殺してやるうぅ。……うふひひひひ、ふしゅるるるる」
魔導士の手に、一本のナイフが握られていた。ナイフには、べっとりと血のりが付いている。そしてその血は、男の右手首から流れているのだった。
「え? ……なんで自分を?」
思わずエコが聞くと、男は勝ち誇ったように笑いながら答えた。
「『
男の杖の先にこぶし大の石が作り出され、振動した。そして、すさまじい勢いで撃ち出される。
「くらええぇ!!『バトイゥール』!」
「うわあっ!」
エコは間一髪のところで石弾を避けた。エコの背後にあった家の壁に、大きな石がめり込んでいる。直撃すればただでは済まなかっただろう。
――魔力と体の強さは、てんびんのように反比例する関係を持っている。
体を鍛えるほど魔力は弱り、逆に体力を弱め肉体の健康を損なうほど、発揮できる魔力は強くなる。
『忌み落とし』の法則は一切の差別をしない。病気だろうと怪我だろうと、肉体を損なえばその分魔力が強くなる。
魔導士の男は今、自ら肉体を傷つけることで体の力を弱め、『忌み落とし』の法則によって自らの魔力を高めたのだ。
「はあっ、はあっ、くくっ。避けたか」
男は興奮と『マナ』の消費によって息切れを起こしていたが、構わずそのまま魔法の詠唱に入った。
男の顔に脂汗が浮かぶ。強力な魔力と手首の激しい痛みが、男を焦らせていた。
「次だ……!『スピニング・バトイゥール』!」
先ほどより大きな石が、その場で回転しながら震えた。
「ターク、杖を早く! あいつ、魔力が強くなった!」
小屋の中に取って返したエコが、タークに向かって手を差し出した。
「なに?」
「巻き込まれるかも! タークはこの子たちと部屋の隅に!」
タークから杖を受け取り、エコが部屋を出ようとする。その瞬間、すさまじい破壊音と共に壁に穴が開いた。
「!?」
エコが振り向くと、小屋の壁に人の拳より少し大きい穴が開いており、そこから白い煙が立っていた。空間を挟んで反対側の壁に、こぶし大の石がめり込んでいる。
「ぜっ、ぜっ、はあ! クソ……! 貫通力を上げすぎたか! どうすりゃいいんだ!?」
男はさらに焦れた。強くなった魔力の制御が効かず、思い通りに小屋を破壊できない。焦りの心が生む浅くなった呼吸がそこから来る思考をも浅くし、男は狙いも付けずやみくもに攻撃を繰り返した。
小屋の壁に次々と新しい穴が開く。男はついに息を切らし、膝に手を突いた。
「『フレイム・ロゼット!!』」
「うわァッ!」
エコはその隙を見逃さない。突如として眼前に現れ、こちらに向かってゆっくりと近づいてくるエコの最大の魔法『フレイム・ロゼット』に対して、男は咄嗟に分厚い水の幕を張り、防ごうとする。
魔法と魔法とが衝突して、噴出した熱い霧が森を覆った。そのあまりの迫力に、男は興奮して引きつったような笑い声をあげた。
「ひひッ! ひっ! ふ、防げたぞ。しっ、死ねっ!! 小娘ェッ!!」
エコは殺気を感じて、身をかがめたまま走り出した。石弾がエコの居た位置を襲う。轟音と共に背後の木がへし折れる。
(さらに威力が増してる……!)
エコは驚愕した。『忌み落とし』とやらが産み出す魔力が、こんなにすごいものとは思ってもみなかった。
徐々に力を増しているのは、おそらく男が出血し続けているせいだ。流れる血の量が多くなるにつれて、『忌み落とし』の作用も強く働き、魔力が強くなっていくという道理だ。
(でも……)
エコの洞察はその行く末も見抜いていた。出血が続いているということは、その分男が死に近づいているという事だった。
さらにいくつかの魔法がエコを襲ったが、いずれも狙いを大きく外していた。明らかに、冷静さを欠いた攻撃。いくら威力が強くても、これでは問題にならない……。やがて攻撃が止んだ。
「『フレイム・ロゼット』!」
エコは、先ほど男が立っていた地点に向けて炎の塊を放り投げる。あの男の浅慮な気性からして、場所を動いてはいないはずだ。
さっきと同じようにすさまじい蒸気が上がり……、すべての動きが止まった。――それで終わりだった。
エコがゆっくりと歩き出した。
「…………ぜひッ――! え、ひィッ……! ひ、ひい、ひぃ、ひ――っ」
エコが男を見下ろす。男は右手首から血を流しながら、倒れ込んで喉を掻きむしっていた。
「へぇえッ! ひいっ! ぜぁっ、げえっ! うっ」
男は釣り上げられた魚のように喘ぎ、顔を真っ赤にして白目をむいていた。
「こほ……こほぉっ」
「マナの使いすぎだよ……」
エコが呟いた。
いくら魔力を強めたところで、『マナ』の消費は通常と変わらない。『マナ』を使いすぎれば呼吸が出来なくなり、挙句の果てにこうなってしまう。
『忌み落とし』によって得たかりそめの力に溺れ、戦術を用いずに繰り返し魔法を使った結果、呼吸負債を返しきれなくなった男。その末路だった。
ここまで酷い呼吸困難に陥った人間を助けることはエコにはできない。
赤い顔をした男はやがて呼吸をやめ、つぶれた風船のように死んでいった。
――――
「この子たち、どうしよう」
まだ眠っている子どもたちを見て、エコが言う。置いて行くしかないさ、とターク。エコは葛藤したが、呑み込んだ。少なくともこの子たちをあの二人の魔導士の手からは救ったのだ。
それでよしとしなければならない。眠りの魔法はやがて切れるだろう。あとはこの子たちが自分でどうにかしなくてはいけない問題だった。
せめてもの思いで、エコは食べものと水を用意して置いておいた。
「気絶させたもう一人の魔導士は?」
「姿が見えない。逃げたらしい」
タークが憎々しげに言う。
「師匠は、生きてるのかなあ」
エコが思わず独り言を言う。どうやら、外の世界はエコが思っていたよりはるかに危険な場所らしい……。エコはここ数日の出来事で、それを実感した。
「……分からないな。でも師匠が死んでいるとしたら、どうするんだ?」
「きっと、生きてると思うけど、もしそうじゃないとしたら」
エコが息を呑む。師匠が死んでいると考えるだけで、怖くなってしまう。
「わたし、困るな……」
「じゃあ、やることは変わらないな。生きてるって信じるしかない。信じて、見つかるまで師匠を探す。……あまり先のことに思いを巡らせても意味がない。先のことはいつも真っ暗闇だからな。暗闇に目を凝らしても、ただ暗闇がもっと深く見えるだけだ。手探りでも前に進めば、もっといろんなことが分かるはずだ。他にいい方法がない限り、それしかないよ」
「そっか。心配してもしょうがないね……。ありがとう、ターク」
――――
「はあ、はあ、はあ……痛え、畜生」
小柄な男は頭を抑えた。先ほどタークに殴られた跡が腫れている。
「畜生、畜生畜生! カナリヤの野郎……、ギザヴェーの野郎。あいつらのせいだ……あいつらのせいだ。畜生、畜生、ちくしょ……」
次の瞬間、男の胸に衝撃が走った。
「え、え……?」
男は、自分の身に何が出来たのかしばらく理解できなかった。その胸に、一本の投げやりが突き刺さっていた。
「な、なん……」
男が振り返ろうとする。その首に、石のこん棒の一撃が叩きこまれた。頸椎が破壊され脊髄が断裂し、男は即死した。
男が死体となってその場に転がると、それを取り囲むように『人間もどき』の一団が現れた。
「……」
人間とは違う特徴を体に備えた、異形の集団。彼らはお互いの間でしか通じないであろう合図を交わし、遺体から衣服と使えそうな道具を奪うと、さらわれた子どもたちを助けるために移動を始めた。
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