2 追放者ゾーリンの旅路1(追放者視点)

 冒険者ギルド『剣魔の集い』のギルドマスター、ゾーリンは荒野を歩いていた。


 彼はかつて『武神』と呼ばれた男、ガーラが所属していたギルドのマスターである。


 いや、『元』マスターというべきか。


 ガーラ追放後、『剣魔の集い』は所属冒険者の大量離脱などもあり、落ちぶれる一方で、ついには解散の憂き目にあったのだ。


 それから十年――。

 落ちに落ちたゾーリンは、その日の生活の糧にも困るようになっていた。


 今は新たな仕事を求めて、町から町に移動する旅路の最中である。

 荷物もほとんどなく、体中傷だらけだ。


 ガーラがガドレーザ竜王国にいるという情報をつかみ、向かっていた最中、山賊に襲われたのだ。

 命からがら逃げだしたものの、負傷したうえに路銀をほとんど失ってしまった。


「これも全部ガーラのせいだ……」


 彼の頭の中で、今やすべての不運はガーラのせいになっていた。

 それだけ恨み――逆恨みだが――が頭の中で凝り固まっていたのだ。

 どうにか宿場町までたどり着く。

 と、


「あら、誰かと思えばゾーリンさんじゃない」


 一人の女に声をかけられた。


 年齢は二十代後半。

 赤い髪をポニーテールにした気が強そうな女だ。

 身に付けているのは軽装鎧と長剣だ。


 その顔には見覚えがある。

 数年前までギルドに所属していたリーザロッテだった。


 十年前、若手の有望株だった彼女は、いまやSランク冒険者になっている。


「ギルドマスターともあろう者が随分とボロボロの身なりじゃない」

「リーザロッテか……お前は元気そうだな」

「ふふ、ギルドを出てから、さらに活躍してるからね」


 笑うリーザロッテ。


 彼女はかつて追放されたガーラを追撃し、仕留めた人物だ。




 ゾーリンはここまでの道程や旅の理由を話した。


「へえ、ガーラの噂はあたしも聞いているわ。けど、ガドレーザにはもういないんじゃない?」

「何?」


 ゾーリンが眉根を寄せる。


「最新の情報によると――」


 リーザロッテが微笑んだ。


「彼、バーンレイド帝国に向かっているそうよ」

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