第6章 修羅の帝国

1 塔を降りる


『無心の境地』。


 全盛期の私でさえ、数えるほどしか入ったことがない――武の究極ともいえる境地だ。


 そこに自在に入れるようになれば――今以上の力を得られるだろう。

 そして、おそらくは全盛期をも超える力を。


「私は、もっと強くなれる――ということか」


 ああ、心が湧き立つ。


 まるで初めて武を志した少年のあの日のように。

 体だけでなく、心まで十歳の少年に戻ったような心境だった。




 ――気が付くと、私は元の場所にいた。


 塔の最上階だ。


「ガーラ……?」

「一瞬、姿が消えたような……?」


 アリスとシュナイドが驚いた顔をしている。


「空間転移……いや、時空転移か?」


 ナターシャが私を見て言った。


「ちょっと立ち寄る場所があっただけだ。それより――目的は果たした」


 私は『賢者の石』を取り出す。


「おお……!」


 ナターシャや他の魔術師たちが嘆声をもらした。


「えっ? えっ? それって『賢者の石』じゃない! なんでガーラが持ってるの!?」


 アリスが驚きの声を上げた。


「いいなー、あたしにちょうだい~!」

「いや、さすがに上げられないが……」

「ケチ」

「けちとはなんだ」

「むー」


 拗ねるアリス。


 こういうところは、まだまだ子どもっぽいな。


「ともあれ――後は塔を降りるだけだな」




 上りと違い、すでにすべてのフロアボスを倒し、あるいは退けているため、下りの帰り道はまったく苦労することがなかった。

 ほどなくして一階に到着し、塔から出た。


『闘神の塔』を、一人も欠けることなく完全制覇である。

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