31 塔を制覇する2


「どうした? 動きが鈍いぞ」


 ネヴィルは容赦なく剣を振るう。


 私は避け続けるだけだった。


 だが、このままでは私の負けだ。


 この少年の体にはパワーもスピードも、そして何よりもスタミナが足りていない。

 長期戦になればネヴィルに勝てる道理はないだろう。


 私の勝機はただ一つ。

 スタミナが尽きる前に――まだ余力が十分なうちに、ネヴィルを上回る動きで反撃に転じ、相手を戦闘不能にするだけのダメージを叩きこむこと。


「やれるか、私に――」

「上には上がいるということを教えてやろう、『武神』よ」


 ネヴィルの斬撃が――さらに速度を増した!


「ぐっ……」


 駄目だ、凌ぎきれない。


 このまま押し切られて、私の負けか。

 諦念が心に広がっていく。


 が、次の瞬間、そんな弱気な心ははじけ飛んだ。


 負けたくない、と今思ったばかりじゃないか。


 あがけ。

 もがけ。

 最後まで諦めるな。


 私は、私自身を叱咤した。

 極限まで追い詰められた状況が、私の集中力をかつてないほどに研ぎ澄ませる。




 ――そして。




「見え……る……!?」


 そう、ネヴィルの斬撃が突然減速した。


 いや、違う。

 私の『見切る』精度がけた違いに跳ね上がったのだ。


 私は無心のまま、ネヴィルの斬撃を避けた。

 避けて、避けて、避けて――避けながら、前進する。


「何っ……!?」


 ネヴィルが初めてうろたえた声をあげる。


 私自身も驚いていた。


 驚くほど静かな心境――。


 明鏡止水の境地。


 余計な雑念がいっさいなく、純度百パーセントの研ぎ澄まされた集中力を発揮することで初めて至る境地だ。


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