30 塔を制覇する1


「来い、『武神』」

「参るぞ、『覇道の騎士王』」


 戦いの先手は、私から。


 床を蹴り、一気に最高速まで加速してネヴィルに迫る。

 当然、腕甲足甲の力も借りて、体への負担を軽減している。


「君にて加減は無用だな――全力で行くぞ!」


 拳を、蹴りを、次々に繰り出す。

 まさしく打撃の雨を降らせると、


「速いな。だが――」


 ネヴィルはすべてを紙一重で見切ってみせた。

 そしてカウンターの剣が横薙ぎに振るわれる。


「っ……!」


 私は間一髪で避けた。


「やはり、お前本来の動きではない。私には分かるのだ――」


 ネヴィルが私をまっすぐに見切る。


「今度はこちらからいくぞ」


 と、反撃に転じる騎士王。


「速い……っ!」


 私は後退した。

 あまりの圧力に後退せざるを得なかった。


 かつて魔王と戦った際に共闘した英雄たちに勝るとも劣らない――もしかしたら、それ以上かもしれない剣技。


 徒手空拳の私ではネヴィルの剣を防御するのは難しい。

 ひたすらに避け続けるが、避けきれない一撃が時折肌を裂く。


「くっ……」


 あまりにもネヴィルの斬撃のコンビネーションに隙がなさすぎて、反撃に転じられなかった。


 このままでは、負ける――。


 敗北の予感が背筋を駆け抜ける。

 ここ数十年、一度も味わっていない敗北。


 嫌だ、と思った。


 負けたくない。

 転生したからとか、少年の体だから全力を出せないとか、そんなことは関係ない。


 たとえ、どんな条件であろうと。

 たとえ、どんな強敵であろうと。


 私は、負けたくない……!


 それは『武神』としての矜持だった。

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