29 託されたもの


「ラーガードはこの鍵の在処を感知できるだろうか?」

「それは分からない。簡単には探知できないよう、隠蔽魔法を何重にもかけているが、ラーガードは魔王に匹敵する力を持つ魔族だ。その隠蔽を破らないとも限らない」


 と、アレク。


「では、いずれこの鍵の在処はバレる……という心づもりでいた方がよさそうだ」


 私は鍵を握り締めた。


「隠し通すのではなく、戦って守る――ふむ、その方が私の性に合っているな」

「ふふ」


 私の言葉にネヴィルが小さく笑った。


 こんなふうに彼が笑うのは初めて見たかもしれない。


「やはりお前は根っからの戦士のようだな」


 ネヴィルが言った。


「それはお互い様だろう、騎士王」


 私も笑う。


「では、最後にここまで来たことへの敬意を表して、これを与えよう」


 アレクが拳大くらいの大きさの宝石を差し出す。


「これは……?」

「魔石さ。古代世界において最高の賢者と呼ばれた人物が作り出したもの。別名を――」


 彼は厳かに告げる。


「『賢者の石』という」

「賢者の……石」

「君は武闘家のようだから、これの価値を正確に理解することは難しいかもしれない。ただ、君に近しい者の中に優れた魔術師がいれば、きっと分かるはずだ」

「それなら一人心当たりがある」


 私はニヤリと笑った。


「では、そろそろ話も終わりだ」


 アレクが言った。


「後は君に――君たちに託すとするよ」

「私は霊体ゆえ、現世への干渉はできん。実体化して呼び出せる召喚者がいれば別だが」


 と、ネヴィルが言った。


「この空間内でしか生ある者に干渉することはできないのだ。現世に関しては、お前たちで守れ」

「もちろんだ」


 言って、私はニヤリと笑う。


「君が一緒に戦ってくれれば心強い……というのが本音だが、な」

「ふん。私も残念だよ。現世に身を投じ、生前のように強敵と戦ってみたかった」


 と、ネヴィル。


「お前を見ていて、久しぶりに武人としての血が騒いだ」

「私もだ、ネヴィル」


 互いに構える私たち。


 自然と手合わせのような雰囲気になった。

 暗黙の了解で、私たちの間に闘気が膨れ上がる。


 私の拳か。

 ネヴィルの剣か。


 純粋に、どちらが上か――勝負。

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