27 次期魔王候補ラーガード(ラシェル視点)


 時間は少しさかのぼる――。


「なるほど、人間どもの中にも侮れぬ者がいる、と」

「はっ」


 ラシェルは赤絨毯が敷かれた床に跪き、恭しくうなずいた。


 謁見の間――。

 最奥の玉座には一人の老人が座っている。


 ラーガード。

 彼の主であり、次期魔王にもっとも近いと言われる高位魔族だ。


 先の大戦で人間に討たれた『黒の魔王』の後継者は、おそらく彼になるだろう、とも。


「ガリオンは討たれたのか」

「はっ。ガーラという者は別格として、他の者も中々の使い手……少なくとも高位魔族に匹敵する戦闘能力を備えているかと」

「『黒の魔王』様と戦った猛者たちはすでに寿命や戦死などで、ほとんどが世を去ったようだが……新たな世代の強者たちが現れている、ということだな」

「左様です」


 うなずくラシェル。


「我が与えた戦闘形態への変身能力……『魔闘モード』をも打ち破る人間がいるとはな」


 ラーガードがうなった。


「人間どもなど軽く滅ぼして、次期魔王に名乗り出ようと思っていたが……そう簡単にはいかぬか」

「左様です」

「やはり、配下の力をもう一段階引き上げたほうがよさそうだな」

「力を……引き上げる?」


 ラシェルはわずかに眉根を寄せた。


「と、申しますと?」

「言葉通りの意味だ。我がかつて『力』を得たときのように……」


 言ってラーガードは玉座から立ち上がった。


「人間どもが『闘神の塔』と呼ぶ場所に、『転生装置』というものがある。それを使えば、さらなる領域へと進化できるだろう」

「転生……」


 ラシェルはハッと顔を上げた。


「では、ラーガード様もその装置で転生なされたと……?」

「うむ。相応の危険は伴うが、な。最悪の場合は魂レベルで分解され、あらゆる世界から完全に消滅する」

「それでも――今よりも強くなれる可能性があるならば」


 ラシェルが顔を上げた。


「私も、挑んでみたく思います」

「よく言ったぞ、ラシェル」


 ラーガードの口元に笑みが浮かんだ。


「では、一番手はお前だ。成功した暁には、お前も我と同じく――魔王級の力を得ることだろう」

「魔王級……」

「そして同じ力を得た者を七体から十体ほどそろえ――我は人間界への侵攻を開始するとしよう」


 ラーガードが謳うように告げた。



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