19 麒麟


「麒麟……か。そういえば、以前フレアに聞いたことがある」

「なんだ、お前は先代炎竜王フレアの知り合いか。人間よ」


 麒麟がたずねた。


「ああ、旧き友だ」


 私が答える。


「名はガーラ」

「……聞いたことがある。だが、聞いていた容姿とはずいぶん違うな」

「事情があって、な」


 私は小さく笑った。


「この塔が誰にも制覇されたことがない、というのは君が理由か」

「まあ、そうだな。俺を倒して、この先に行った者は誰もいない」


 と、麒麟。


「……いや一人だけ、互角の勝負をした人間がいたな。数年前だが――」

「ほう?」

「卓越した魔法の使い手だった。特に水属性魔法の威力は目を見張るほどで、さすがの俺も少なくないダメージを受けたぞ。いや、あの戦いは楽しかった……」

「ルーファスか?」

「ほう! 知り合いか。やはり強者は強者と惹かれ合うものよな」


 愉快げに笑う麒麟。


「そう、男はルーファスと名乗っていた。だが、戦いも最高潮と言うところで、奴は突然一方的に戦いを打ち切ったのだ」


 言って、麒麟は少し怒ったように、


「『飽きた』とな」

「……彼らしい」

「まったく、せっかく最高に面白かったというのに興ざめだ。今でも思い出すと腹が立つほどだぞ」


 麒麟が言った。


「とはいえ、奴との戦いが楽しかったのは事実だ。お前は――どうだ? 俺を楽しませてくれるのか?」

「努力しよう」


 私は構えを取った。


「不敗流か」

「知っているのか、私の流派を」

「以前に同じ流派の者と戦ったことがある。なかなか手ごわかったが……俺には勝てなかった」

「なるほど。では先輩の借りを返させてもらうとするか」


 言って、私はじりじりと間合いを詰める。


 麒麟との戦いが、始まった。


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