16 ナターシャの過去(ナターシャ視点)


 SIDE ナターシャ



 ナターシャは、墓場で生を受けた。


 母親がそこで出産したのか、それとも産まれたばかりの彼女を誰かがそこに置き去ったのか。

 いずれにせよ、彼女に原初の記憶は墓場の中だ。


 天性の才能で、彼女は霊と触れ合うことができた。


 幼い彼女を育ててくれたのは、墓場の霊たちだった。

 食事も、寝かしつけも、霊が世話をしてくれた。


 そうして成長したナターシャは、やがて墓場を出た。


 死霊術の力を見込まれ、キラル魔術学院に入り、そこを首席で卒業する。

 魔術師ギルドでも頭角を現し、二十歳になったころには、当代随一の死霊術師と呼ばれていた。


 ナターシャはたった一人で大した苦労もなしにそこまでのし上がった自分が誇らしかった。


 自分は天才だと疑わなかった。

 自分の力に絶対の自信を持っていた。


 そして――彼に出会った。


『波濤の魔術師ルーファス』。


 その存在は、ナターシャにとってショックだった。


 ――本物の天才は、彼だ。


 出会ってすぐに分かった。


 ルーファスはすべてにおいて格が違う。


 魔力も、術式の制御も、理論も、知識も――。

 今までの自分が子どもに見えるほどに。


 ルーファスは次元そのものが違っていた。

 敗北感と屈辱に打ちのめされた。


 それから三年。

 最初に受けたショックは、いつしか敬意と憧れへと昇華されていた。


 ――もう一度彼に会いたい。


 ナターシャは強く願うようになった。

 だが、気まぐれな性格の彼は、滅多に他人に会おうとしない。


 よほど気に入った者の前にしか、姿を現さないのだ。


 おそらくは――彼が認めた人間の前にしか。


 ――認められたい。


 ナターシャはそう考えるようになった。

 そのためには、ルーファスでさえ困難なクエストを成し遂げることだ。


 だから、塔の制覇に志願した。


「私はこの塔の最上階まで必ず行くわ。もう一度彼に会うんだ……!」


 ナターシャは闘志を燃やし、フロアボスと向き合う――。


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