2 そのころ、ギルドでは……。6(追放者視点)


 それから十年が経った。


「ゾーリンさん、宿代をそろそろ払ってほしいんですがね……」

「も、もう少し待ってくれ……もうすぐ、この間の仕事の報酬が入るから、それで……」

「一か月前にも同じことを聞きましたよ? そのときの報酬はどうなったんです? 払ってもらってないと思うんですけど」

「いや、その先方の支払いが遅れていて……」


 ゾーリンはしどろもどろだった。


 そもそも先月の話も今の話もその場しのぎの嘘なので、払えるはずもないのだが……。


 ゾーリンのギルドは結局、解散の憂き目に遭っていた。

 かつてはS級だったギルドの凋落ぶりは、まさしく悪夢。


 そして彼自身の生活も、大富豪並みの豪勢なものから、今ではその日に食べるものも困るほどになっていた。

 こうして宿代を払うこともできないほどに。


「そ、そうだ、先方から報酬の支払いについて連絡が来るのを忘れていた。今から行ってくる」


 ゾーリンは逃げるように宿から出て行った。


「今回払えなかったら、宿を出てもらうからな!」


 背後からそんな声が聞こえてくる。


「くそ……ちくしょう……」




 そんな折、彼は王都である噂を聞いた。


 近ごろ王都付近に現れた二体の魔族――。

 そのうちの一体はガドレーザ竜王国のルナリア姫が倒し、もう一体はわずか十歳の子どもが撃退したというのだ。


 その子どもの名は、ガーラ。


「あいつと同じ名前か……忌々しい」


 つぶやきながら、ゾーリンは王都に向かっていた。


 理屈ではなく、本能で――。

 彼の中の何かが、その噂に引きつけられていた。


「奴と同じ名前の少年……まさか、な……」


 ゾーリンは立ち止まってうめく。


 どくん、と心臓の鼓動が早鐘を打っていた。


 今の彼の苦境は、ガーラの追放から始まったのだ。

 少なくともゾーリンはそう感じていた。


「少年ガーラ……か」


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