第5章 闘神の塔

1 そのころ、ギルドでは……。5(追放者視点)

 かつて『武神ガーラ』が所属していたギルド――。


「くそっ、あいつ……ギルドの資金を持ち逃げしやがった!」


 ギルドマスターのゾーリンが怒声を上げた。


「おい、誰かあいつの行方を知らんか!?」


 周囲の冒険者に聞くが、誰も答えない。

 完全な無視である。


 ガーラを追放して以来、日に日に彼の人望を落ち、とうとう誰からも相手にしてもらえないレベルにまでなっていたようだ。


(たかが冒険者を一人追放しただけで……くそが!)




 ――この日を境に、ギルドはさらに落ちぶれていく。


 一年後にはS級からC級にまで陥落していた。


「くそっ、もっと冒険者の質をそろえろ! こんなんじゃ、ロクな依頼もこなせないだろうが!」


 ゾーリンが周囲の者に怒鳴る。


 が、周囲は冷たい視線を返すばかりだった。


 彼の秘書兼愛人だった女もすでにいない。

 逃げるように去っていったのだ。


 新たな秘書を雇ったが、愛人にしようと迫るとすぐに去っていった。

 とにかく、彼にはもはや腹心と呼べる者がいない。


 そして――資金が底をつき始めた。


「給金が払えない?」

「どういうことだよ、ええっ?」


 ギルドの職員たちに詰め寄られる。


 ゾーリンはしどろもどろだった。

 栄光のS級ギルドのマスターだった自分が、まさかたった一年で給料未払いによって部下たちから詰め寄られるという屈辱を味わうとは……信じられない思いだった。


「待て……もう少し待ってくれ。今、金策に走っていて……」

「ハア? 金策ぅ?」

「あれだけ羽振りがよかったのに、金策に走るほど落ちぶれてるのかよ!」

「やってられっか! 俺はもう辞める!」


 職員たちがいっせいに叫ぶ。


「頼む、待ってくれ……」


 ゾーリンの背中から汗が伝っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る