10 武神VS魔族ラシェル1


「君はガリオンのように『魔闘モード』を使わないのか?」

「うぬぼれるな。人間ごときに変身する必要などない」


 ラシェルが告げた。

 地を蹴り、無造作に突っこんでくる。


「不敗流――【豪雷】!」

「【邪神槍破ザルクランス】」


 私の放った蹴りを、生み出した魔力の槍で迎撃するラシェル。

 がいんっ、と強烈な打撃音が鳴り、私は大きく吹き飛ばされた。


「何……!?」


 押し負けた――!?


 驚いてラシェルを見据える。

 彼が生み出した魔力の槍は粉々になって消滅した。


「ほう……俺の魔力槍を一撃で砕くとは。驚いたぞ」


 ラシェルの方も表情を変えていた。


「驚いたのは私も同じさ。攻撃のぶつけ合いで吹き飛ばされたのは、魔王との戦い以来だ――」


 強い――。


 今の一瞬の手合わせだけで分かった。

 このラシェルは、ガリオンやバシューレとは格が違う。


 かつて戦った『黒の魔王』と比べても、それほど遜色がないほどに――。


「……しかも、こいつの上にはまだラーガードがいる、というわけか」

「では、もう少し速くするぞ」


 告げて、ラシェルが地を蹴った。


 さらに速くなった!?


「不敗流――【流水歩りゅうすいほ】」


 私は相手のスピードにスピードで対抗することなく、ゆったりとした動きで迎え撃った。

 文字通り、流水のごとき緩やかな動きで。


「ほう……!」


 ラシェルはわずかに感嘆の声を漏らしたようだ。

 繰り出された魔力弾を、魔力がこもった拳や蹴りを、私はいずれも紙一重で避け、あるいはいなす。


「面白い防御法だ、人間」

「力に力をぶつけるだけが戦いではない、ということさ」

「ならば、俺はさらなる力で叩き潰してやろう」


 ヴンッ。


 ラシェルの前方に魔法陣が浮かびあがった。


「【邪神具召ディルヴァロ】」


 呪言とともに魔法陣から何かがせり出してくる。


「召喚系の魔法か……!?」


 空間を超え、長大な槍が出現する。

 全体が水色に塗られた三又の槍。


「それは――」

「邪神ザルクの力を宿す武具。ラーガード様が俺にお貸しくださったものだ」


 槍を構えるラシェル。


「本来は、かつての魔王ヴァゼルディーヴァ様が使っておられた逸品だ。これを受けられるか、人間――」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る