9 武神、出陣

「きゃぁぁぁっ……」


 ラシェルの一撃で、ルナリアが大きく吹き飛ばされる。


「ルナリア!」


 私は急いでジャンプした。


 空中の彼女を抱きとめ、着地する。

 いわゆるお姫様抱っこの体勢だ。


「あ、ありがとう……」


 彼女は私を見て、礼を言った。

 それから頬を赤らめ、視線を逸らす。


「だが、この姿勢はちょっと恥ずかしいな……」

「ん? 君はお姫様なんだから、ちょうどいいだろう」

「いや、王女だからって男にお姫様抱っこされるのは恥ずかしいに決まってるだろ!」

「そういうものか」

「姫様は殿方に免疫がまったくありませんからね」


 気が付けば、メリルがすぐ側にいた。

 いつの間に近づいたんだ――。


「この私に気配を悟らせないとは、やはり君はただものではないな」

「ふふ、ただの隠密歩法です。メイドのたしなみですわ」

「たしなみなのか……?」


 なんでもできるんだな、メイドというのは……。


「いや、メリルが特別なだけだからな」


 私に内心を読んだようにルナリアがツッコミを入れた。


「とりあえず――奴は私に任せてほしい」


 私は前に進み出た。


 当然、その先にはラシェルがいる。

 こちらの出方をうかがうように、腕組みをして悠然とたたずんでいた。


「し、しかし、奴は強いぞ……あたしも一緒に」

「いや、ここは私一人にやらせてほしい」


 私は彼女を見つめた。


 ラシェルは――やはり危険すぎる。


「頼む」


 その気持ちが伝わったのか、


「……任せる」


 言って、ルナリアがその場にへたりこむ。


 ガリオンとの戦いや、先ほどのラシェルの一撃――やはり思った以上に彼女の消耗は激しいようだった。


「後は休んでいてくれ」


 私はラシェルに向かって歩いていった。

 数メートルの距離を挟んで対峙する。


「ここからは私が相手をする。ガリオンの敵討ちというなら、私に存分にぶつけるがいい」

「敵討ち? なぜ、そんなことをする必要がある」


 ラシェルが不思議そうにたずねた。


「奴は弱いから死んだ。魔族の世界は弱肉強食だ。死んだ奴を悲しむような文化はない。そして――」


 ボウッ!


 彼の全身が魔力のオーラに包まれていく。


「俺は強い。ゆえに、貴様らに殺されることはない」


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