16 気配


「彼がガーラ殿……ふふ、救国の英雄となれば、姫様とも釣り合いますね」


 メリルが笑った。

 対するルナリアは明らかにうろたえている。


「な、何を言っている……!? だいたい年齢が離れすぎているだろう」

「あら、見たところ彼は十歳程度。姫様は十八歳です。これくらいの年の差ならば、まったく問題ないのでは?」

「い、いやいやいやいや、しかしだな……」

「国で一番の女傑である姫様には並の殿方では釣り合いませんが……彼ならとてもお似合いですよ」

「あわわわわわ……」


 なぜかルナリアは真っ赤だった。


「ふふ、戦場では無双の姫様も、男女のことになると本当に初心ですね」

「ぐう……からかってるだろ、お前」

「ふふ、姫様はからかい甲斐がありますもの」


 ジト目のルナリアに、メリルは楽しげに微笑んだ。


「ですが……単にからかっただけではありません。本心も混じってますからね」

「仲がいいんだな」


 私は思わず微笑んでいた。


 主従の枠を超え、二人は友人なのだと会話の雰囲気から伝わってくる。

 心が温まるようだ。


「仲がいい? こいつは事あるごとにあたしをからかってくるんだぞ」

「あら、私は姫様のためを思って、こうして提言しているまでですよ?」

「まったく……」


 ルナリアはまだジト目だ。


 と、そのときだった。




 ――どくんっ。




 私の心臓の鼓動がいきなり高鳴った。


 遠くから、ここに向かって『何か』が近づいてくる。

 それを感知したのだ。


「この気配は――?」


 すさまじいまでの魔力だった。

 信じられないほどの威圧感だった。


 武術大会で戦った高位魔族バシューレも、魔族の中ではそれなりに上位のはずだが、その彼すら問題にならないほどのプレッシャー。


「……ふん」


 私はうなった。


 久しぶりだ。

 この私が、ここまで緊張させられるのは。


 あるいは、かつて戦った『黒の魔王』ヴァゼルディーヴァに匹敵するのではないだろうか。

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