11 魔法戦団長カタリナ

「そちらの少年といざこざでも起こしたか? 貴様は優秀だが、すぐにトラブルを起こすところはなんとかしてほしいものだな、ミルドレッド」

「も、申し訳ありません、団長……」


 ミルドレッドがすっかり恐縮している。


 団長――ということは、この魔法戦団の長だろうか。

 こんな年若い女だとは意外だった。


 肩のところで切りそろえたアイスブルーの髪と、切れ長の瞳。

 クールな印象を受ける美女である。


「我が団が迷惑をかけたようだ、申し訳ない」


 彼女は私に頭を下げた。


「私はキラル王国魔法戦団長カタリナ」


 彼女が名乗った。


「いざこざの理由は?」

「そ、それは、このガキが大臣に会いたいってしつこいから――」

「貴様には聞いていないぞ、ミルドレッド」

「けど、団長――」

「私に同じことを二度言わせるつもりか?」

「うっ、その厳しくも美しい顔……素敵です、団長」


 ミルドレッドがトロンとした顔になった。

 恍惚としてる感じだ。


「ハアハア……もっと厳しくしかってください、団長ぅ」


 なんだこいつ……。


「いきなりMになるな、ミルドレッド」

「団長の前だと、なんか俺の性癖が目覚めちゃうんですよ……」

「まったく。今は彼の話を聞きたいんだ。貴様は少し控えていろ」

「もっとキツめの言葉で言ってくれませんかね? なんなら俺を足蹴にしても――」

「貴様の性癖も少し控えろ。話が進まん」


 言って、カタリナは私に向き直った。


「では、あらためて聞かせてくれないか。彼との間に何があった?」

「うむ。実は――」


 私は事情を説明した。


「……なるほど。門番を魔法で吹き飛ばすなど、言語道断の蛮行。貴様には規律に基づく罰則が待っているからな。追って沙汰する」


 カタリナがミルドレッドに言った。


「この愚か者が」

「ああ、もっと厳しくしかってください、団長ぅ」


 ミルドレッドは恍惚とした顔だ。


「私は貴様を叱責しているのだぞ」

「へへへ、俺にはご褒美です……ハアハア」

「では、キチンと罰も与えないとな。まずは貴様が迷惑をかけたこちらの少年と門番たちに謝罪するんだ」

「お、俺がこんな奴らに!?」

「当然だろう」


 ふん、と鼻を鳴らすカタリナ。


「あ、でも団長の命令と考えれば、この屈辱もだんだん快感に……ああ」


 ミルドレッドはもだえていた。




「申し訳ありませんでしたぁっ」


 私と門番の前で、ミルドレッドは派手に土下座をした。


 何度も、何度も。


「い、いえ、もういいですから、ミルドレッド様……」


 門番たちの方が恐縮している。

 が、ミルドレッドはチラチラとカタリナの方を見ていた。


「はふぅ」


 そして、またも恍惚とした顔をしていた……。

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