10 拳一つで呪文を圧倒する

「私も名乗っておこう。名はガーラ。流浪の武闘家だ」


 私はあらためてミルドレッドを見据えた。


「ふん、てめぇの名前なんてどうでもいいんだよ」


 彼は鼻を鳴らした。


 確かに『若きエース』を名乗るだけあって、なかなかの魔力だ。

 本来魔法使いではない私は魔力を感知できないのだが、色々と修行を積んだ結果、『魔力の感知』に関しては、通常の魔法使いと同じくらいにはできるようになった。

 魔法の行使は当然できないが。


 その技能で測った結果、彼の魔力は十分に一流と呼べるものだった。

 とはいえ――、


「あのルーファスに比べれば、大人と子ども……いや、それ以上の開きがあるな」

「何をブツブツ言ってやがる――」


 言いながら、ミルドレッドが笑う。


「随分と楽しそうだな」


 私は彼に言った。


「魔法とは強大な力だ。その力を振るうのが楽しいか?」

「ああ、楽しいね。他者より強い力を操り、他者を屈服させる――こんなに楽しいことがあるか?」


 ミルドレッドが言った。


「暴力的な衝動は誰しもが持つ。だが、それを理性で飼いならしてこそ、真の『武』――」


 私は言い返す。


「君は『武』の境地には至っていないようだな。それほどの力を持ちながら」

「ガキのくせに小難しいこと言ってんじゃねーよ! くらえ、小僧!」


 ミルドレッドが右手を突き出す。


「【風竜裂破ウィンドファング】!」


 ごうっ!


 巨大な竜巻が発生し、私に向かってくる――。


「風使いか。ならば私も『風』で対抗するとしよう」


 私は腰だめに拳を構える。

 不敗流の基本動作の一つ――中段正拳突き。


「はあっ!」


 気合い一閃。

 放った拳は大気を砕き、割り、その拳圧が風を――猛風を生み出した。


「な、何ぃぃぃぃぃぃぃっ!?」


 ミルドレッドが驚愕の声を上げた。


 それはそうかもしれない。

 彼が生み出した竜巻の数十倍の大きさの竜巻が、私の拳圧によって出現したのだから。


 ごびゅぅぅぅぅっ!


 魔法の竜巻は、私の竜巻に飲みこまれて消滅する。

 そのままの勢いで突き進み、ミルドレッドが吹き飛ばされた。


「ぬあぁぁぁぁぁぁっ!?」

「おっと、加減を誤ったか」


 どうも強力すぎたようだ。


 武術大会のおかげで多少慣れてきたとはいえ、まだまだこの体を使いこなすには時間がかかりそうだった。

 とりあえず、今はミルドレッドを助けなければ。


 私は吹っ飛ばされた彼の落下地点を予測して走る――。


「【風竜壁ウィンドシールド】!」


 そのとき前方から新たな風魔法が飛んできた。


「う、うわぁっ……!?」


 その風魔法がクッションのようになり、吹き飛ばされていたミルドレッドを受け止めた。


 そのまま、彼をゆっくりと着地させる。

 見事な魔法のコントロールだ。


「はあ、はあ、た、助かった……」

「この愚か者が!」


 駆け寄ってきたのは一人の女性だった。


 黒いローブをまとった、なかなかの美女だ。





***

〇『いじめられっ子の俺が【殺人チート】で気に入らない奴らを次々に殺していく話。』

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