9 魔法大国にて

 王都に入った私は、その足で王城にやって来た。


「この国の内務大臣、ゲッテル・ザッハドーラ閣下にお目通り願いたい」

「なんだ、子ども……?」

「ウィナス王国の内務大臣より紹介状をもらっている。お伝え願えるだろうか」

「すまんが、大臣は君のような子どもには会わないんだ」

「紹介状なんて君がもらえるわけないだろう」


 門番たちは困ったような顔だ。


 人のよさそうな雰囲気なので、私の申し出を嘘だと思いつつも、強く追い返せないのだろうか。


 ただ……紹介状をもらったのは本当のことである。

 ウィナスを出る際に大臣に頼んで、各国への紹介状を書いてもらったのだ。

 と、


 ドウッ!


 横合いから飛んできた光弾が門番たちを吹き飛ばした。


「なんだ……?」


 振り返ると、そこには黒いローブ姿の人物が立っていた。


「門番なんだから、もっとガツンと追い返しやがれ! 子どもだろうと関係ねーだろ。ちゃんと門番の仕事しろや!」


 私の元に彼が歩いてくる。

 金髪碧眼の美しい少年だった。


「ゲッテル閣下はこの国で最高の実力者だぜ? 当然、ご多忙な日々を送っておられる。お前みたいな子どもに会ってる時間なんてねーんだよ! ほら、さっさと消えろ! でなきゃ、門番同様にお前も光弾で吹き飛ばす!」


 繊細そうな顔立ちとは裏腹に、言葉遣いや態度は乱暴だった。


「その制服は――」


 私は彼が身に付けている黒い軍服を見つめた。


「噂に名高いキラル魔法戦団か」


 魔法大国キラルの主戦力を担う『キラル魔法戦団』。

 その力は大陸中にとどろいている。


 魔王大戦においても多くの魔族を撃退し、勇名を馳せた集団だ。


「ああ、キラル魔法戦団だ。俺はその第一部隊の副隊長を務め、戦団の若きエースと呼ばれているミルドレッド・バーン」


 少年が誇らしげに胸を張る。

 見たところ十七、八歳くらいだが、その年齢で副隊長を任されているとは。

 エリート中のエリート、というやつだろうか。


「突然の訪問による無礼は心得ている。だが私はどうしても伝えたいことがある。お目通り願えないだろうか。先ほども言ったように、ウィナス王国の内務大臣から――」

「お前みたいな子どもがウィナスの大臣の紹介状なんてもらえるわけねーだろ! 偽物だ、偽物!」


 彼は書状を確かめもせずに言い放った。


「その対応はいささか比例ではないかな?」

「非礼だと? ウィナスごときの使者を、キラル魔法戦団副隊長の俺がどう扱おうと問題あるまい?」


 ミルドレッドが傲岸に言った。


 周囲には同じような制服を着た者が何人か通りがかったが、いずれも私たちを遠巻きに見るだけだ。


「それに、門番たちをいきなり攻撃魔法で吹き飛ばすのは、いかがなものかと思うが?」

「はっ! 門番ごときをどう扱おうが、俺の勝手だろうが。この俺は魔法戦団の副隊長だぞ!」

「身分など関係がない。君がやったことは、ただの暴力行為だ」

「ガキが……!」


 ミルドレッドの額に青筋が浮かぶ。


「生意気な態度にはお仕置きが必要だな」

「血の気が多いな。もし私が勝ったら、先ほどの門番たちにキチンと謝罪できるか?」

「お前が俺に勝つ? 笑わせるな!」

「謝罪できるか、ミルドレッド・バーン」


 私は再度問うた。


「……!」


 ミルドレッドの表情が変わる。

 私が今の言葉に込めた闘気を感じ取ったのだろうか。


「……はっ、謝罪でもなんでもやってやるよ。ま、お前が俺に勝つなんてことは100億パーセントありえねぇけどな!」


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