8 そのころ、ギルドでは……。4(追放者視点)

「おい、ダルトン! この間受けたモンスター討伐依頼はどうなったんだ? 期限は昨日までのはずだぞ!」


 ギルドマスターのゾーリンは怒りの声を上げた。


「ん? ああ、今日までだと勘違いしていたよ。悪い悪い」


 ぼりぼりと菓子を食べながら、太った青年剣士……ダルトンが頭をかいた。


 こう見えても、彼はS級冒険者だ。

 人材の流出が止まらない、このギルドの救世主として期待した新メンバーだった。


 だが、実績はいいものの、依頼を受けては期限を破り、また受けては期限を破り……の繰り返し。


 ゾーリンはその後始末に奔走する日々だった。

 とんだ期待外れである。


「まさか、お前……高い給金だけもらって、危険なクエストからは逃げるつもりじゃないだろうな」

「はは、まさか……」


 言いながら、ダルトンがわずかに視線を逸らしたのを、ゾーリンは見逃さなかった。


 ギルドはこのダルトンに給金を払っている。

 それは依頼の達成量とは別の、いわば『専属料』だ。


 彼がこのギルドに常駐することを条件に、毎月けっこうな高額を払っているのだった。

 当然、馬鹿にならない金額だ。


 だが、ダルトンがS級相当の実力を発揮してくれれば、彼が稼いでくる金だけで十分におつりが出る金額である。


 彼が――このギルドに来てから、全然働かないために、その目論見はあっさり崩れたのだが。


「今度こそがんばるって。また、依頼を探してくるよ」


 とダルトンが立ち上がったところで、一人の若い美女が現れた。

 ゾーリンの秘書を務めるブリジットだ。

 彼の愛人でもあった。


 が、そのブリジットはダルトンに熱視線を注いでいる。


 以前から怪しいとにらんでいたが、最近は彼女もダルトンとの関係を隠さなくなってきた。


 しかも自分の目の前で。


(くそ、ブリジットの奴……俺のメンツが丸つぶれじゃないか)


 愛人をあっさりと寝取られた情けない男。


 ブリジットもダルトンも、自分をそうやって馬鹿にしている気がしてならなかった……。

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