6 武神と波濤

「近々、魔族による大侵攻が起こりそうなんだ。多くの人が犠牲になるかもしれない。それを止めるため――君にも力になって欲しい」

「んー……漠然としてるなぁ。僕にどうしてほしいの?」

「今後、世界中が結束して対魔族用の軍を作る動きになると思う。かつての魔王大戦でもそうだった」


 私はルーファスに言った。


「そのときに備え、心構えをしてほしいということさ。戦いの準備なり、己の鍛錬なり……」

「鍛錬? 何それ、食べれるの?」


 ルーファスはボーっとしている。


 本当にマイペースな男だ。

 ここまでマイペースだと清々しいくらいで、私は好感を抱いてしまった。


「はは、君は己の才のみでそこまでの力を得たわけか」

「力……ねぇ。まあ、並の魔術師よりは強いかもね。『波濤の魔術師』なんて二つ名までついちゃった……仰々しいから、僕はあんまり好きじゃないんだけどね、二つ名」

「はは、私もそれなりに仰々しい二つ名があるよ。割と気に入っている」

「へえ、なんていうの」

「『武神』だ」

「おお、かっこいいね!」


 ルーファスが目をキラキラさせた。

 けっこう子どもっぽいところがあるようだ。


「君の『波濤の魔術師』もいいと思うぞ」

「え、そう? そう言われると、なんかかっこいい気がしてきたぞ……!」


 ルーファスがますます目を輝かせた。


「おそらく君は、当代随一の魔術師だ。その二つ名にふさわしい強さをもっているだろう?」


 私は彼を見つめる。


 かつて『黒の魔王』と戦った時代には、世界中から猛者が集まってきた。

 その中には一流の魔術師も数多くいた。


 だが、そんな彼らと比べてさえ、ルーファスは群を抜いている気がする。

 魔法に関しては素人の私でさえ、分かる。


 圧倒的な魔力と制御能力――。

 彼ならきっと、大きな力になる。


「ま、気が向いたら、力を貸してあげるよ」


 ルーファスはそう言って、またあくびをした。


「眠くなってきたから、僕また寝るよ」

「……さっきまで寝てたんじゃなかったのか?」

「久々に他人としゃべったからエネルギーを消費したみたい」

「ほんの十分ほど話しただけだが……」

「十分! 長時間じゃないか!」


 ルーファスが力説した。


 そして『もう寝る』とばかりに、水流の頂上部で横になる。

 なぜかローブがまったく濡れていないのは、彼がなんらかの魔法を使っているんだろうか?


「せっかく誘ってくれたのに、ごめんね~」

「……いや、戦う意志がないのであれば、無理にとは言うまい。君の力は素晴らしいし、実に惜しい……だが、決めるのはあくまでも自分自身であってしかるべきだ」


 私はルーファスに言った。


「君にその意志がないなら、魔族との戦いに出るべきではない」

「……ふーん、君は無理強いしないんだね?」


 ルーファスがかすかに笑った。


「今までの人たちは、みんな僕を無理やりにでも働かせようとしたのに」


 ……この青年にも、色々と会ったのだろうか。


「引き留めてすまなかったな。私はそろそろ行くよ」

「あ、待って。君は他の人たちとは違うみたいだから、一つプレゼントを上げるよ」






***

〇『いじめられっ子の俺が【殺人チート】で気に入らない奴らを次々に殺していく話。』

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