4 旅立ち

「ルナリア王女の国に立ち寄るか。その間にもう一国を通るルートで行くか……」


 最初にウィナスに入ったルートを逆にたどれば、当然ルナリアのいるガドレーザ王国に着く。


 が、今回は別のルートを通ることにした。


 そちらを進むとウィナスとガドレーザの間にもう一国――キラルという国を通ることになる。

 魔法大国として知られるキラルは、人類が魔族に立ち向かう際に大きな力になってくれるだろう。




 しばらく街道を進んでいると、横手に奇妙なものを発見した。


「なんだ、あれは?」


 青い、壁。


 最初はそう見えた。


 だが、よく見れば違う。

 地面から大量の水流が吹き上がっている。


 そして、その上部に人影があった。


「んー……眠い」


 青いローブをまとった青年が、水流の上で寝ている。


 さながらベッドで寝るかのように――。



 顔立ちは美しく整っている。

 ただし、眠そうな顔のおかげで美青年という印象がぼやけてしまっていた。


 そんな容姿よりも何よりも目を引くのは――、


「ほう、すさまじい魔力だ」


 私は表情を引き締めた。


 見たところ、まだ二十代だろう。

 だが、まるで数百年を生きるエルフのような強大な魔力を感じた。


 かつて相まみえたエルフの大魔導師に匹敵するか、もしかしたら凌駕しているかもしれない。


「ん、誰……? ふあ……」


 青年が下りてきた。


「すまない。休んでいるところだったか?」

「いや、ちょうど起きたところさ。一回目のお昼寝タイムはそろそろおしまい」


 一回目ということは、二回目もあるのだろうか……?


「私はガーラという。あなたは名のある魔術師とお見受けするが……」

「僕はルーファス……ただの魔術師だよ」


 青年が名乗った。


「ルーファス……」


 知らない名前だった。


 だが、私の知識には十年のブランクがある。

 この時代においては、名を馳せた有名な魔術師である可能性が高い。


 と、そのときだった。


「ん、あれは……?」


 ルーファスが眠そうに目をこすりながら、空を見上げた。


「ドラゴンだな」

「こっちに降りてくるね」

「人間を食べるタイプらしいな。私が撃ち落とそう」


 私は空中のドラゴンに向かって跳び上がろうと構える。

 が、ルーファスの方は相変わらずのほほんとした様子で、


「んー……問題ないよ」


 ばしゅっ……!


 いきなり水流の一部が大きく噴き上がった。


 次の瞬間、


 ざしゅっ、ざしゅざしゅざしゅぅっ!


 ドラゴンを空中でバラバラにしてしまう。


「一定範囲内に入ってきた敵を自動的に攻撃するように設定してあるんだ」


 ルーファスが言った。


「僕の【自動魔法】さ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る