19 高位魔族


「ラーガード様には及ばんが、俺とて高位の魔族。貴様らごときが千人集まろうとも、俺に傷一つつけることはできん!」


 バシューレが哄笑する。


「大した自信だな」

「自信? これは確信というのだ。試しに、俺に攻撃してみるか、小僧? 毛ほどの傷もつけられないだろうがな――ほげぇっ!?」

「あ、すまない。あまりにも隙だらけだったから一撃入れてしまった」


 私は頭をかいた。


 ……決してわざとではない。

 隙があるとつい反応して攻撃してしまうのは、武闘家のサガだろうか。


 バシューレはぽたぽたと鼻血を出していた。


「あ、ついたな……傷」

「……!」


 バシューレがカッと目を見開いた。


「こ、小僧ぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」


 激怒している。


「ふざけやがってぇぇぇぇぇっ! 絶対に殺すっ!」

「プライドを傷つけてしまったか」

「死ねぇぇぇぇぇぇぇっ!」


 逆上したバシューレが襲いかかる。


 自分は人間よりも格上の存在だ、という矜持を砕かれたからか、その動きは単調で、鋭さに欠けていた。


「精神的に打たれ弱いところがありそうだな。精進するがいい」


 繰り出された一撃を紙一重で避け、カウンターの一撃を叩きこむ。


「が……っ」


 それで勝負はついた。


 バシューレは崩れ落ち、そのまま気絶した。




「高位魔族を一瞬で――何者だ、あんたは……!?」


 出場者全員が呆然を私を見ていた。


「ん、通りすがりの武道家だが?」

「いやいやいやいや」


 全員からツッコまれてしまった。

 嘘は言ってないのだが……。


「ねえ、あいつの話の通りだと、これから魔族軍が攻めてくるってことよね?」


 アリスが言った。


「私たちも備えた方がいいんじゃないかな……」

「確かにな」


 うなずく私。


「人と魔族の大戦は、避けられないかもしれないな」


 ため息がもれた。






※次回から第3章になります。ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!

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