18 バシューレの正体

 私はバシューレの攻撃を観察し続けていた。


 勝負を決めることは、おそらくたやすい。


 だが、それだけでは駄目だ。


 バシューレの正体を知りたい。

 おそらく、こいつは――。


「何をボーッとしている!」


 襲いかかるバシューレに、


「が……はっ……」


 私が繰り出した拳が、カウンターとなって打ちこまれた。


「こ、こいつ……っ」


 膝から崩れ落ちるバシューレだが、すぐに立ち上がった。

 さすがにタフだ。


「そろそろ、私の方からも行くぞ」


 そして連撃を見舞った。


 正拳突き。

 手刀。

 足払い。

 貫き手。

 前蹴り。

 回し蹴り。


 ほとんど無呼吸で放つ攻撃の雨に、バシューレは一方的に打ちのめされている。


 最後にもう一度、正拳突き――。


「くっ……!」


 バシューレが逃げるようにして大きく跳び下がった。


「……なるほど。人間にお前のような者がいるとは」


 ふうっとため息をついた。


「甘く見ていたことを詫びよう」


 右手で顔を覆う。

 そしてグッと引っ張った。


「……ほう」


 バシューレの、人間の顔がまさに覆面のように外れた。


 その下から現れたのは異形の顔だった。


 いや、顔というべきなのか――。

 のっぺりとした白一色の顔の中心部に渦巻のような文様が描かれている。


「君は――」


 私はバシューレを見据え、たずねる。


「魔族か?」


 同時に、この国を訪れた日の夜に出くわした魔族のことを思い出していた。

 こいつもその仲間なのか――?


「いかにも。俺は魔界最強と謳われる『魔紅牙伯クリムゾンファング』ラーガード様の側近だ」

「ラーガード……?」

「次期魔王にもっとも近いと呼ばれるお方よ」


 彼は誇らしげに言った。


 次期魔王――。

 数十年前、私は『魔王大戦』の折に『黒の魔王』ガイゼルを討ち倒した。


 以来、どうやら魔界では新たな魔王が生まれていないということらしい。

 その次期魔王の座にもっとも近い高位魔族……か。


「ラーガード様の尖兵はすぐに現れるぞ! この世界すべてを破壊するためにな――」


 バシューレが笑う。


「そのさきがけとして、まずはこの俺――バシューレがこの国を焦土に変えてみせよう」


 ごうっ!


 彼の全身が黒い魔力のオーラに包まれる。


 光が弾けると、バシューレの姿が変わっていた。

 黒い肌に翼、ねじくれた角。


「高位魔族か……」

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