16 決勝戦へ


「はあっ!」


 私の一撃で、対戦相手はサークルの端まで吹っ飛び、気絶した。


「し、勝負あり!」


 審判が驚いたような表情とともに告げる。


「す、すげえ……」

「また秒殺……」

「何者だ、あのガキ……」


 ざわめきがあちこちから聞こえた。


 武術大会はすでに準々決勝になっていた。


 私は準決勝進出一番乗りだ。

 ちなみに、ここまですべての試合を十秒以内に決めている。


「つあっ!」


 そして、バシューレも――。

 秒殺の山を築き、危なげなく準決勝進出を決めたようだ。

 と、


「こんな子どもが準決勝まで……!?」


 私の元に一人の男が歩み寄った。


 身長は2メートルを優に超えている。

 そして、その頭部は人間ではなく狼のそれである。


 獣人族の戦士――。


「なぜだ、お前は人間の戦闘能力を大きく超えている」

「君は? 出場者か」

「ああ、わざわざ人間ごときの大会に出向いてやったのだが……まさか、お前のような存在に出会うとは」


 狼の戦士が淡々と言った。


「まあ、いい。しょせんは人間。この俺が叩き潰してくれる」

「随分な自信だ」


 彼が放つ威圧感は、一回戦の相手である『竜殺しのシュナイド』と同等以上だった。

 おそらく、かなりの実力者だろう。


 強者との対戦は楽しみだった。




「ほげぇぇぇぇっ!」


 一撃。

 それで勝負はついた。


「……っと、少し加減を誤ったようだ。すまない」


 私は頭を下げた。


 どうも、一回戦から今までの試合を通じて、私自身の動きのキレが増してきているようだ。


 転生後の体に慣れてきたのかもしれない。

 いくつもの試合をこなしたことで、この体で実戦のカンをつかむことができるようになってきた。


 やはり大会に出てよかった。

 想像以上に良い鍛錬になっている。


「はあ、はあ、信じられん……強すぎる……」


 狼の戦士がよろよろと歩み寄る。


「俺の完敗だ……お前の強さに、心から敬意を表する……」

「君も強いが、今回は運がなかったな。だが、いい勝負だった」


 私は彼と握手をした。


「戦ってくれて感謝する」

「こちらこそ、だ。人間を侮っていたらしい……恥ずかしいよ」


 狼の戦士はそう言って、笑った。


「試合前の言動を謝罪する」

「気にするな」


 私も笑った。


 さあ、次は決勝戦だ――。


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