10 武術大会、一回戦開始


「はあああああ?」


 アリスが目を丸くした。


 この娘、こういうリアクションが癖なんだろうか?


「シュナイド相手に何言ってるのよ! っていうか、あんたみたいな子どもがシュナイドと戦うなんて危険すぎよ! 棄権しなさい!」

「危険だけに棄権か、ふふ」

「……何オヤジギャグ言ってんのよ、子どもなのに」

「おっと、これは失礼」


 つい、言動が子どもらしからぬものになってしまった。


「それはそうと、君は私を心配してくれているわけだな。礼を言う」


 私は彼女に微笑んだ。


「っ……! べ、別に、あんたなんか心配してないんだからねっ」


 たちまちアリスの顔が赤くなる。

 照れているらしい。


「ふふ、お互いの健闘を祈ろう。そして決勝で戦おうじゃないか」

「ふん、そうね。この間の借りを返してみせるわよ」

「その意気だ」


 私たちは微笑み合い、握手をした。




 王都内の闘技場がウィナス王国武術大会の開催場所である。

 そこに入ると、周囲には剣士や魔法使いなどが数百人単位でたむろしていた。


「全員が出場者か……」


 闘志や緊張感が混じった熱気が充満しており、私は心地よく感じた。


 これぞ、『戦場』の空気だ。

 そんな空気を吸っていると、体も心も活性化してくるような気がする。


 やがて、時間になり、


「さて、一回戦が始まるようだ」


 私は闘技場に向かった。


 割れんばかりの歓声が、聞こえた。


 私の出番は一回戦の第十三試合。

 対戦相手は前回の優勝者、『竜殺しのシュナイド』。


 まさに相手にとって不足なし――という状況だ。


「さあ、やるか」


 がつんっ。


 私は胸の前で拳を合わせ、歩みを進めた。


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