8 魔族との邂逅

「魔族……か?」


 夜空に浮かぶシルエットを見て、私は眉根を寄せた。


 たまたまこの世界に迷いこんできた魔族だろうとは思うが――。

 何か嫌な予感がした。


 だんっ!


 地面を蹴って、手近の家の屋根に飛び乗る。

 魔族は十メートルほど上空を飛んでいるようだ。


「あの距離ならジャンプで届く――よし」


 私は魔族を追った。


 屋根から屋根へと飛び移り、やがて奴の真下まで行くと、そこで大きくジャンプする。


 ぎいいっ……!?


 私に気づいた魔族が驚いた様子を見せる。


 場合によっては叩き落とそうと思ったが、その前に魔族は地面に降下した。

 それを追って、私も落下。


 広場の前に降り立ち、対峙した。


「――魔族が何の用だ」


 私は魔族にたずねた。


 そいつは無言だ。

 知性が低い下級魔族だろうか?


 中級以上の魔族なら、基本的に人間と同等以上の知性を持っている。

 が、下級の魔族に関してはモンスター同様の者が多い。


 ぐるるる……。


 魔族がうなった。


 人に害為す前に、ここで始末してしまうか――。


 私は冷徹に判断した。

 その闘志を感じ取ったのか、魔族が襲ってきた。


「――遅い」


 ざんっ!


 手刀一閃。

 魔族の首を刎ね飛ばす。


 頭部を失った魔族は倒れ、そのまま無数の黒い粒子となって消滅した。

 いかに魔族といえど、魔王大戦を潜り抜けた私にとって、下級程度は敵にもならない。

 と、


「――ほう。下級とはいえ、魔族を一撃で倒すとは」


 どこからか声が聞こえた。


「誰だ?」


 私は周囲を見回したが、声の主は見当たらない。

 遠方から声だけを飛ばしているのか、魔法の類で身を隠しているのか。


「かつて『黒の魔王』様が討たれてから、およそ五十年――平穏になった世にも、猛者は残っていたか」

「お前も魔族か?」

「……ふん」


 私の問いに答えず、声の主の気配は去っていった。


 一体、何者だ――。


 きな臭い気配を感じ、私は顔をしかめた。


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