7 そのころギルドでは……。3(追放者視点)

「くそっ、どんどん人がやめていってるじゃないか! どうなっている!?」


 ギルドマスターのゾーリンは焦っていた。


 人材の流出が止まらない。

 先日ギルドを出ていったA級やB級などの上位冒険者たちは、あてつけのようにライバルギルドに移籍した。


 おかげで高難度の仕事は軒並み、そこに取られてしまった。


 高難度の仕事というのは、報酬も格段にいい。

 もちろん、それを達成できる腕利きの冒険者を抱えていることが条件になるが――逆に言えば、腕利きを多く抱えていれば、高難度の案件をいくつも達成して、大金を得ることができるのだ。


 このギルドは今までそうして多額の利益を得てきた。


 だが――A級をはじめとした上位陣の大量流出によって、それはもはや不可能になった。




 そんな折、ギルドに新たなメンバーが加入した。


「ほう、S級冒険者か!」


 ゾーリンは歓喜した。


 やって来たのは、一人の剣士だった。

 でっぷり太った青年である。


 こんな見かけとは裏腹に、豪快な剣技でS級の実績を誇るという。


「ダルトンだ。よろしくな」


 彼が笑った。


「ようこそ、我がギルドへ。君を特別待遇で迎えよう」


 ダルトンはもろ手を挙げて歓迎した。


「ギルド内に君専用の部屋を用意した。私室として好きなように使ってくれ」

「ほう? 宿を探す手間が省けるな」

「我がギルド期待の新戦力だ。それくらいの待遇は当然さ」


 ゾーリンが笑う。


「よし、ブリジット、来なさい」


 呼び鈴を使うと、黒服を着た若い美女が現れた。


 ゾーリンの秘書を務めるブリジットだ。

 彼の愛人でもあった。


「彼を案内してやりなさい」


 ブリジットはなかなかの美貌で、きっとダルトンの心も和らぐだろう。




 ゾーリンはその後、ギルドマスターとしての仕事に没頭した。


 ダルトンの加入で心が軽くなったおかげか、仕事がはかどる。

 と、ブリジットが戻ってきた。


「ずいぶん遅かったな……ん、どうした、ブリジット?」

「べ、別に……」


 つい、と視線をそむけた彼女の顔は赤かった。


「……ダルトンさん、すごい……」


 ぽつりと漏らしたつぶやきを、ゾーリンは聞き逃さない。


(なんだ!? こいつ、ダルトンと何かあったのか――?)


 まさか、ずっとダルトンと一緒にいたのだろうか。


 彼に、何かされたのだろうか――?


 愛人の態度の変化に、ゾーリンは焦りと不安を感じてしまった。





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