5 次の目的
「ああああああ、こんな子どもに負けたぁぁぁぁぁ」
私の前でアリスは頭を抱えていた。
「あーあ、一年の修行はなんだったんだろ……? もしかして、前より弱くなってない、私……」
「一年前の君の実力は分からないが、今の君は十分に一流だ。自信を無くす必要はない」
私は彼女の肩をポンと叩いた。
「でも、あんたに手も足も出なかったし」
「それは仕方がない。キャリアが違いすぎる」
「ハア?」
「ああ、いや、上には上がいると言ったろう? 今の自分の力に納得がいかないなら、さらに強くなればいい」
「さらに……強く……」
私の言葉にアリスはハッとした顔になった。
「君は強い。だが、まだまだ向上する余地がある。先ほどの戦いで指摘した、攻撃直後の足元の弱さなどもそうだ。他にも、さっきの戦いで改善点をいくつか見つけた。たとえば――」
と、私は彼女の『改善点』をすべて伝えた。
お節介だろうか?
かもしれないが、さらなる強さを求める少女を見ていると、何か力になってやりたいと思ってしまう。
「……今の戦いの中で、そんなにいろいろ見てたの!? あんた、何者――」
私が『改善点』を伝え終えると、アリスはすっかり目を丸くしていた。
だが、すぐに気を取り直したのか、
「……なるほど。確かにうなずける部分ばかりね。ありがとう」
「素直な性格は強くなるために重要な資質だ。君はきっと強くなる」
私はアリスに微笑んだ。
「……あり、がと」
彼女は照れたようにもう一度礼を言った。
「……でも、一朝一夕に強くなるのは無理ね。あーあ、今回の大会も優勝は難しいかな」
ちらり、と私を見る。
「勝てそうにないもんね」
「賞金は優勝しないともらえないのか?」
「ううん。ベスト8以上は全員もらえる。当然優勝者が一番多いけどね」
と、アリス。
「前回はベスト4の賞金だったし、今回は優勝してもっとたくさんのお金を故郷に届けたかったの」
「なるほど……分かった」
私はうなずき、あることを決意した。
「アリスとやら、君の目的は村を救うことだったな? ならば私が協力しよう」
「えっ……?」
「何かの縁だ。私自身、次の人生の目標を探していたこともあるし、何よりも――君の想いはまっすぐで純粋だ。戦いを通して、それが伝わってきた」
私は彼女に言った。
「見過ごせぬ」
「ハア? あんた一体何が言いたいのよ――」
「私が優勝したときは、賞金を君の村のために使おう」
「はああああ?」
アリスがポカンとした。
「なんで? そんなことして、あんたになんの得があんのよ!?」
「損得ではない。私は君の心意気に打たれたのだ。だから協力することにした――それだけさ」
「……あんたって変わってるね」
「そうか?」
――こうして私は武術大会に臨むことになった。
アリスとの戦いで、10歳という年齢は不問として武術大会に出場することを認めてもらえたのである。
目標は優勝賞金を獲得し、アリスの村に寄付することだ。
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