4 アリス、武神に圧倒される(アリス視点)

「こ、この私に偉そうにっ!」


 アリスは怒りの声を上げて少年に突進した。


 すでに余裕はなくなっていた。

 信じがたいことだが、自分の本気の攻撃を――この十歳くらいの少年は完全に見切っているようなのだ。

 だが、


「私は――負けるわけにはいかないのよっ」

「いい気迫だ。何か事情でもあるのか」


 と、少年がたずねる。


 確かに――事情はある。


「私は――」


 アリスはまっすぐに彼を見返した。


「武術大会で賞金を稼いで、稼いで、稼ぎまくって、村を豊かにする――圧政と重税に苦しむ私の村をねっ!」


 思いを載せて繰り出した雷撃は――。


「なるほど、君には背負うものがあるのだな」


 つぶやいた彼に紙一重で避けられた。


 ちりっ……。


 その髪が一筋焦げる。


「ふむ、鋭い攻撃だ」

「余裕ぶってるんじゃないわよ!」


 もちろん、さっきの一撃は威力を弱めている。


 本気で撃ったら、彼を殺しかねないからだ。

 だが威力は落としても、速度は同じだ。


 それを――彼はあっさりいなした。


(何者なのよ、こいつ……っ!?)

「余裕ではない。君を観察している」


 彼が言い返した。


「戦いにおいて、相手を観察することは基本中の基本だ」

「うるさいっ」

「――と、すまんな。昔、弟子を持っていた時期があるせいか、若者を見ると、つい指導したくなるんだ」


 苦笑交じりに彼が詫びた。


「不快にさせてすまない」

「うるさいうるさいっ! っていうか、子どものくせに何が『昔は~』よ!」


 アリスは怒った。


 彼に対して――ではなく。

 ここまで完全に抑え込まれ、まったく手も足も出ない自分自身のふがいなさに、だ。


「こんなことじゃ優勝なんてできない! ベスト4の壁を越えられない! あのシュナイドには――勝てない!」


 絶叫とともにアリスの全身から雷撃がほとばしる。


「勝つためにこの一年、修行を積んできたのよ! シュナイドどころか、あんたに負けるなんて――絶対に許されない!」


 その雷撃が、一瞬にしてすべて消えた。


「えっ……?」

「君の雷撃……少し出力が上がりすぎだ。コントロールできない攻撃は危ないぞ」


 目の前で少年が語る。


 彼の側の空間に亀裂が走っていた。

 どうやら雷撃はそこに吸いこまれたようだ。


「とりあえず封じさせてもらった。雷撃の制御はもう少し気を付けた方がいいぞ」


 少年が淡々とした口調で告げる。


「はあっ」


 アリスはため息をついた。


 空間を割いて雷撃を吸いこむ――そんな規格外の技まで出されては、さすがに負けを認めざるを得ない。


「降参よ。私の負け」


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