13 旅立ち


 できれば、この国にずっと留まってくれないか――。


 ルナリアが熱意を込めて語った。


「この国にか……」


 私は思案した。


 別に不満があるわけではない。


 この国の危機を救った以上、かなりの待遇で迎えられるのではないだろうか。

 第二の人生の始まりとしては、上々のスタートといっていい。


 まあ、今の私は十歳の子どもなのだから、いきなり将軍として迎えられたり、とかは、さすがにないだろうが……。


 いずれにせよ将来安泰になりそうだ。


「お前の力で王国軍を支えてほしい。現在はあたしが実質的に軍を動かしているが、お前に助けてもらえたら頼もしい」


 と、ルナリア。


「私はこの通り子どもだぞ」

「関係ない。我が国は能力重視だ」


 いちおう言っておいたが、ルナリアはにっこりと首を振る。


 ……ふむ、私が十歳であることも承知のうえで、これだけのラブコールを送ってくれているわけか。


 だが――。


「ありがたい申し出だが、遠慮させてもらいたい」


 私は首を左右に振った。


 たちまちルナリアが落胆の表情を浮かべる。


「私の力を買ってくれたようなのに、本当に申し訳ないと思う。だが私は……今の私の望みは、一つの場所で安定することじゃないんだ」


 私は彼女をまっすぐ見つめた。


「しばらくは世界を見て回りたいと思っている」

「世界を……?」

「まあ、武者修行のようなものだ」



 私は笑った。


「そうだ、ついでに先代の炎竜王フレアに会えたら、ブレイズのことを頼んでおくよ」

「何?」

「今は不可侵条約でおとなしくしているが、将来は分からないからな。フレアがその条約に署名でもしてくれたら、ブレイズは今後も王国に手出しできなくなるだろう」


 私がまた笑う。


「何から何まで……本当に感謝しかない」


 ルナリアは深々と頭を下げた。


「お前がこの国に留まれないのは残念だが……な」

「何、私がいなくても、君一人で十分さ。炎竜王との戦いで見せた能力、そして勇気と矜持――君は英雄に値する人物だ。きっとこの国を引っ張っていける」


 私は彼女の肩に手を置こうとしたが、身長が届かなかった。


 手持無沙汰になった私の手を、ルナリアがそっと握る。


「――そうだな。がんばるよ」


 言って彼女はかがみこんだ。

 私の頬にそっとキスをする。


「また会おう。小さな勇者」

「ああ。またな、ルナリア姫」




 そして――私は旅立つ。


 特に目的はない。


 気の向くまま、足の向くまま。


 せっかく二度目の人生が与えられたのだ。


 こういうのも悪くないだろう――。


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