12 VS炎竜王ブレイズ3


「ひねりつぶしてやるぞ、人間!」


 人間の姿となったブレイズが襲いかかってきた。

 このサイズの方が私としては戦いやすい。


「いいだろう、やってみるがいい」

「るおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんっ!」


 ブレイズが吠える。


 その全身から炎が噴き出した。

 地平線まで焼き尽くしてしまいそうなほどの、圧倒的熱量――。


 それをすべて人間サイズに圧縮し、自らの体にまとって突撃してくる。


「なるほど。いい技だ」


 私はうなった。

 さすがはフレアの弟子だけのことはある。


「余裕ぶっていられる状況か? 細胞一つ残さず燃やしつくしてやるわっ!」


 ブレイズが突進してくる。


「くらえ! これが竜王だけが使える竜族最強攻撃スキル――【ブレイジングインパクト】だ!」


 その熱量がさらに増し――。


 唐突に、消えた。


「…………………………えっ?」


 ブレイズはポカンとした顔だ。


「竜族最強スキルというだけあって、確かにすさまじい熱量だ。まともに食らえば、私とて一瞬で燃え尽きるだろう。だから別の場所に送っておいた」


 私はこともなげに言った。


「別の場所……?」

「異空間だ」


 私は軽く空中を撫でる。


 ばきん、と音がして、前方が裂けた。

 私が超速で手刀を振るったことで、空間自体が裂けたのだ。


 そしてその裂け目に、先ほどの熱量のほとんどを送りこんでおいた。


「涼しくなったな、炎竜王」

「ぐっ……」


 今のブレイズはさっきまでのように炎をまとっていない。

 まとっていた炎はほぼすべてを異空間に送ってしまったからだ。


「炎という飛び道具がなくなった以上、勝負を決するのは拳と拳――さあ、やろうか」


 がつん、と私は左右の拳を胸元で合わせた。


「お、おのれぇぇぇぇ……っ」


 ブレイズが向かってくる。


 が、力の源とも言うべき炎の大半を失ったその動きは、さっきまでとは比べ物にならない。


「遅い」


 すれ違いざまに繰り出した私の一撃で、ブレイズは倒れた。


「――安心しろ、急所は外しておいた」

「ば、馬鹿な……この俺が、まったく歯が立たない……!?」

「世の中、上には上がいる。精進するがいい」


 私は彼に言った。




 私とルナリアは王都に戻った。


 たちまち炎竜王を撃退した話が国中に広まり、私は英雄として歓待された。


 そして今日は凱旋パレードの日――。


「ブレイズを撃退した英雄!」

「ガーラ、ガーラ!」

「ガーラ、ガーラ!」


 私を称える声が鳴り響いている。

 さながら地鳴りのようだ。


 それだけこの国の人間が炎竜王に苦しめられてきたんだろう。


 その炎竜王ブレイズは、この国と不可侵条約を結んだところだ。

 当面は私がにらみを利かせているし、ブレイズが反撃に出てくることはないだろう。


 万が一、この国に害為すようなら、今度こそ私が討ち果たすと言い含めてある。


「本当に感謝の言葉しかない」


 ルナリアが笑顔で言った。


 出会ったときの女騎士姿ではなく、王女らしいドレス姿である。


 騎士の格好も凛々しく美しいが、今の装いは可憐で私も思わず目を奪われた。


 美しい――。


 素直に感嘆する。


「十歳にして素晴らしい武術――いや、できればこの国にずっと留まってはくれないか」


 と、私の手を握ってくる。


 彼女の頬が、少し赤くなっていた。


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