7 王女ルナリアの憂鬱

 私はブレイズの居場所を聞くと、さっそく歩き出した。

 が、


「ま、待て、ガーラ!」


 ルナリア王女が、はあはあと息を切らせて追いかけてきた。


「いきなり向かう奴があるか。もう少し、あたしの話を聞け」

「話?」


 私は足を止める。


「なんて足の速さだ……信じられんな……」


 ぶつぶつ言いながら、ルナリアが私の前まで来る。


「その辺に座ろう。まだ話すことがある」




「あたしは――実は兄上から疎まれていてな」


 ルナリアが話を始めた。


「疎まれる?」

「兄の方は民からの人気がない。これといって取り柄もなく、人柄も……いいとはいえない」


 と、ルナリア。


「対してあたしは――まあ、自分で言うのもなんだが、民からはかなり人気があると聞いている」

「美人で剣の腕も立ち、勇気もある。何よりも民のために自らの体を張る――それらは英雄の資質だ。人気も出るだろう」

「べた褒めだな」

「感じたままを言っただけさ。君のような女傑は過去に何人かあったことがある。君にも同じきらめきを感じる」

「……全然子どもらしくない台詞を言うな、お前」


 ルナリアがジト目になった。


「だが、それで合点がいった。さっき兵士たちが君を置いて逃げ出したのも、そのせいか」


 私が言うと、ルナリアは深いため息をついた。


「……そういうことだ。敵の強さに兵士がパニックを起こし、逃げ出した……というのが表向きの発表で、実際は最初から逃げる手はずだったのかもしれない。軍の大半はあたしに好意的だが、中には兄上の一派もいるからな……」

「敵軍の真っただ中で君を見捨て、殺す――か」

「次期王位継承者はあくまで兄上だからな。その兄上より人気があるあたしは……まあ、邪魔者だ、はは」


 自嘲気味に言うルナリア。


 王族も色々と大変だな。


「だが生き永らえた以上、あたしにはまだできることがある。王城に戻り、炎竜王軍の次の襲来に備え、軍を再編成する。さすがに二度も見捨てられたくはないからな」

「ならば、なおのこと――私がすぐに炎竜王を倒してきた方がいいだろう」


 言って、ふたたび歩き出す私。


「えっ、いや、なんでそうなる!?」


 ルナリアが慌てたように追いかけてきた。


 だが、今度は立ち止まらない。


 ルナリアの事情を知った以上、彼女を救うためにも、炎竜王は私が討伐する――。

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